遊ばない夏
炎天にネムの花は動かず
うつむけば汗の二雫、舗石に染む
葉かげに座り、なにゆえの苛立ちか
指先をふるわしタバコのひと吸をいそぐ
靴の先のそこかしこ、蟻の巣穴の出入りせわしく
俯瞰する村は蝉の解体に祭りの賑わい
ひととき人を忘れる
人を忘れ
荒れ野に踏みこむ
背丈に余る夏草に囲われ、動物じみる
小便をする
草いきれと尿の臭気がまじりあい
見えるがごとく中空へ立ちのぼり
仰ぐ顔のまま、くらりと傾くのを
踏みとどまる
街道に出る
渡ろうとしてガードレールをまたぎ、足許に
ヒャクニチソウとユリの花束を見つける
「おーいお茶」が添えてある
人は壊れやすい
ぶつかってみればわかる
瞬間だが、こうやって自分は壊れるのだな、と
苦痛がくる前にまざまざとわかる
難しくない
灼熱に息苦しくなる
見渡す限りの水田、白い道の交叉、光る積乱雲
叫びのような明白さ
もしかしたらこれは暗黒ではないのか
まったく人影を見ない
ずっと見ていない
世界が人を失っているのは歓迎すべきことだが
私がいる
ヤブガラシの花の上
一羽の黒揚羽がランダムに飛ぶ
顔の汗をぬるりと手で絞れば
遠い希望のような
ひとすじの蛇口の水
選出作品
作品 - 20110813_700_5447p
- [優] 夏日 - 鈴屋 (2011-08)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
夏日
鈴屋