忘却と錯誤と混乱の深い霧の中
針先ほどの幽かな青白い月の光が
脳裏をよぎる
手には複雑にコードの絡まった目覚まし時計
誰の顔も
誰の名前も思い浮かばない
細い煙突から這い出てくる大男の影
時折たなびくロングコートの裾
大きな扉は徐々に閉じられてゆく
片足を失った老人は跛を引きながら杖を拾いに行き
その杖で子供を気の失うまで打ち続ける
この先の石段を数段昇った踊り場には
昨日失くしたビー玉が
月の光を吸い込んで徐々に膨れ上がっていく
やがて少年の泣き声が聞こえなくなり
大きくなったビー玉がゆっくりと石段を砕きながら転げ落ちた
老人の残った足を踏み潰しても止まることはなく
夜の街をゆっくりと縦断して見せた
選出作品
作品 - 20110412_854_5141p
- [佳] 月光 - 飛黒 (2011-04)
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月光
飛黒