選出作品

作品 - 20110119_212_4978p

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もしもし

  カモメ7440

箪笥のなかにハンガーが入って行く
(行ったのか、や、敬礼

   でも、そいつが手錠をかけられていることを知っている
犬・猫・鳥たちのように自由でなく、
 一滴の血も流れず、
固いぼくらの皮膚のようにひびわれることもないことを
  まるで扉という扉にすべて鍵をかけたように

 でも夜を投げられた、光の敗北
その時ぼくらは、縫い目がほどけていたことを知ったのだ

 ・・内部は明るくさわやかな破水をしている
もうズボンの脚はと尋ねないー。

    ・・・でも知らないー。知らない よー・・。

そいつにぼくらの臭いブーツや、ネクタイ、スーツが
お誂え向きじゃないか
そいつが死の苦しみを知って、毅然と生き抜くことを覚え、
敷居を跨がせない、とある日誓ったと言ったって
信じられない、そいつが血を舐めずり、喘ぎ、
長い骨のような沈黙を続けていた、と

―――でもある日、トリックを好んだ履歴書のように
語り始めた
晴れ渡って涯てしない壁のあるところでは
 あたたかい掌のなかでしぼむ花
溜息 眼差し、やさしさの意味が、くら い しかない
・・・おやすみ/こちらこそおやすみ

  ね え 赤い舌が が、
あらわれた
     ね え 愛の棘が が、
   またパニックになった

  ・・・蒼褪めた花弁は くらい土へと舞落ちる
樹木が水を含んで膨らみ、鱗の如く葉がぼろぼろと抜け落ちていく
薔薇いろ、薔薇 いろ

 おまえはきっとくろい聡明そうな眼をしている、
たとえそれが突然過ぎ去りし思い出が甦るというー。
走馬灯だとしても

 上くちびるの/探るような鋭い眼つき

  ・・・おまえは炉の息、燠の紅く燃える挨拶をおくる
そしてー。うるおっている 、 うるおっている
雲の上、梯子づたいに
おまえはショウウィンドーのキラキラした嵐ー。対話
を、視点で感じることができる

 おまえの魂は生きていた! 勝て!
そして今日という日の価値を
キャッシュカードで今月分の給料を引き出せ
小さい穴、小さい穴 から
小人など、・・・従順さを要求する社会など
追いだしてしま え
   さあ―――上へ!

 見えない空間へ/すなおなのどけさを

   ぼくらはまるで見えない抽象的な情報、絵の断片を
差出人のない手紙みたいに思ってる
単純で分かりやすくするために、ただ、
何か楽しい物語を、と要求と提案を掲げた

    そのためにー。そのためにー・・・。

 みな、造られたものを、判をおされた紙のように思ってる。
いまも、なだらかな湾曲、殺菌処理されて使い道をうしなった
残酷な想像力を、
出口のない迷宮のようにおもってる

    物として放置して、趣味のよいものに置き換えた
でも見ろ! 心の影、霊魂の奥処のまえでは、あんなに飛翔
   をもとむる海へ!―――息をひそめれば不思議なことってある
われわれは貯えている、世界の果てのファンタジーを
   あわよくば論理や意味を排除―――排斥
ただ、むじゃきに跳び上がり、ぼくたちの眼から舞い上がるさまを

 (や、敬礼
・・飛行機雲ゆずりの
無鉄砲をうちあげたようなぼくの人生に
偽りとか、病むとか、転がり落ちることとが沁みて
   不安を消せない

 真夜中/みしらぬ音楽が鳴り響くみたいに

  まよな か、風船がパンクするように
窓がサッと開いた。

  ビービービー、小さな魂、ちいさなたましい
SOS・・・ 地球人のみんな、ぼくと、話をしようよ
光と埃と、物とに囲まれた暮らしはときにもつれる柔かい脚
たしかにそれは道路わきのどうでもいい花
デモしたい/そう、でも、したい・・
いささか興に欠けても

 知ってるよ、ぼくらが目隠しをしてること
さまようこと、大きな涙が洋梨みたいにぽろりとこぼれおちること

 ・・世界が入り組んでるってこと、専門家じゃないとわからない
記号で、音楽が奏でられているってこと

   煙、ー薫り、足も手もない、意志から、
そう、意志から
秩序と権利の名のもとに
 花がタコ型ウィンナーしている。ー茎がワカメ、
根がかぶら
    そしてピカピカ光っている
滴といいたい。−朝露といいたい
でもそれは残酷な冬のしろい溜息だっていうこと

 でも目覚めた、ふくよかな脱脂綿から
おまえはけばだった、
          唾だった・・・
    きっとおまえは、ハンガーだけれど、トランクなのだ
エプロンをかけられているけれど、角砂糖なのだ
おまえはきっと列車にだって乗る、切符を買い求める
 おまえがぼくの芳香自身であるとみたされていたとき

   一撃を喰わされた動物だったー。共感という親友だった
ハンガーから取り外す服に
            女の髪の毛がついていても、
ゆたかな髪のひと房、
 できうるなら、馬の後ろのふさふさした毛ではないかと
描かれずにいたバルコニーの向こうの夏の川の模様を見た
   雲がフリージアに似ていると、と、

    地平線が脈打つー。おまえのはじめてが宇宙を家にするー・・・。

 ・・・聾 者 よ !
ありとある翼をもて、そして静脈の膚あらき
腕よ! 風 に な れ
、くりかえし燃やされ、身をまかす欲情よ
けむりをあげて、この骨や灰のうそぶみにこそ脈搏て
袖を通す・ 袖を通す・  袖を通す・

  き っ と 秋の湖のように に、
夜の化石
     き っ と 蝸牛が が、
   蝙蝠になった

   (おまえが、姿を変えているように夢見るのだ
日々の裏側へとどまっていく、・・・シャツは哀悼の歌
はためきでも、静けさのなかで陶器となるだろう
 洗濯籠のひときわ派手なトランクスも
網の目の形状でさみしい
           阿弥陀籤をしながら
   見なれざるひとの胸に消えん

、がちぎれる瞬間、汗の沈黙する階段をおりてゆこう
真空のなかでも配列がある
季節のないところでも雲や波が語らう
ああ、そして朽ちてゆく筋よ
おまえの生くる時間のなかに

    もう一度・・・/も 一度 敬礼 。ー・・

   ーいつもぼくのなかにある
  −いつもぼくのなかにある
 −いつもぼくのなかにある

   人を迷わせ、悟らせ
そして、いつもぼくのなかにある
やすぐすりの効能のような台辞《せりふ》

   実にあまりに単純すぎるために、
もう忘れてしまった人が多いようであるが、
尋問する! ―――黙秘する

      ーいつもぼくのなかにある
  −いつもぼくのなかにある
         −いつもぼくのなかにある

マントにくるみこまれた
 エレヴェーターの故障みたいに
なんでか、おまえの足をひきとめる教会音楽がある
   ジャズがある、
         しろい旗が風になびいて る
 絵のような夜が星のなかでかがやいてる
墓石の間をさまよっている
            ああ、ぼくはすねもの!
   つむじまがり! 卑屈だし、根性は悪いし
 でも家庭はもちたいし、マイホームも持ちたい
職業として詩を書きたいし、
            責任!責任!責任!
   ああおまえらうるさいし
 、ああ殺人はなくならないし、
まるで、―――折れた枝  
           欲しいのは・・・葉!

      ーいつもぼくのなかにある
       −いつもぼくのなかにある
 −いつもぼくのなかにある

   ネジ廻しを握って、
 器械のパネルに木ネジをねじこんで
、ハンガーを
      ハンガーを
 ぼくらの人生にまだ生まれぬ子供のように
   、ハンガーを
ハンガーを
 ・・・芝居も見に行かず、妄想ひとつで
一炊の夢。−もう余分な死などいらない
   ハンガーを、
 ハンガーを


(* 二回編集しました。一回目はタイトルのつけ忘れ、
二回目は、些細なミスです。)