選出作品

作品 - 20101101_008_4800p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


熊のフリー・ハグ。

  田中宏輔




まあ

じっさいに、熊の被害に遭われた方には

申し訳ないのだけれど



熊のフリー・ハグに注意!



きょう

きゃしゃな感じの三人組の青年たちが

フリー・ハグのプラカードを胸にぶら下げて

四条河原町の角に立って

ニタニタ笑っていた

プラカードの字はぜんぜんヘタクソだったし

見た目も気持ち悪かったし

なんだか頭もおかしそうだった



そういえば

おとついくらいかな

テレビのニュースで見たのだけれど

二十歳くらいのかわいらしい女の子たちが二人

フリー・ハグのプラカードを胸に下げて

通っているひとたちに声をかけて

ハグハグしていた



とってもかわいらしい女の子たちだったから

ゲイのぼくでもハグハグしてもらったらうれしいかも

なんて思っちゃった



不在の猫

猫は不在である

連れ出さなければならなかったのだ

波しぶきビュンビュン

市内全域で捜査中

バケツをさげたオバンが通りかかる

「あたしの哲学によるとだね

 あんた

 運が落ちてるよ」

不在の猫がニャンと鳴く

挨拶する暇もなく

雨が降る

「このバケツにゃ

 だれにでもつながる電話が入ってるんだよ

 試してみるかい」

角のお好み焼き屋のオヤジが受話器を握る

「猫を見たわ

 過激に活躍中よ

 気をつけて

 あなたの運は落ちてるわ」

ガチャン

お好み焼き屋のオヤジは受話器を叩きつける

「あんた

 これはあたしの電話だよ

 こわれるじゃないか」

バケツをさげたオバンが立ち去る

お好み焼き屋のオヤジがタバコをくわえる

不在の猫がニャンと鳴く

雨が上がる

いまの雨は嘘だった

ずっと

青空だったのだ

お好み焼き屋のオヤジが放屁する

真ん前の空を横切って、一台のUFOがひゅるひゅると空の端っこに落ちていく

学校帰りの小学生の女の子が歌いながら歩いてきた

「きょうもまじめな父さんは

 あしたもまじめな父さんよ

 きょうもみじめな母さんは

 あしたもみじめな母さんよ

 ローンきつくてやりきれない

 ローンきつくてやりきれない

 みんなで首をくくって死にましょう

 みんなで首をくくって死にましょう」

不在の猫がニャンと鳴く

「お嬢さんの学校じゃ

 そんな歌が流行ってるのかい」

時代錯誤のセリフがオヤジの口を突いて出てくると

かわいらしい小学生の女の子はオヤジの目を睨みつけて

「バッカじゃないの

 おじさんって

 おつむは大丈夫?

 おててが二つで

 あんよが二つ

 あわせて四つで

 ご苦労さん」

テレフォン・ショッピングの時間です

午後にたびたび夕立が降るのは

ご苦労さんです

仕事帰りに一杯のご気分はいかがですか?

鼻息の荒い毛むくじゃらの不在の猫がニャンと鳴く

カレンダー通りに

月曜日のつぎは火曜日

火曜日のつぎは水曜日

水曜日のつぎは木曜日

木曜日のつぎは金曜日

金曜日のつぎは土曜日

土曜日のつぎは日曜日

日曜日のつぎは月曜日

これってヤーネ

燃え上がる一台のUFOから宇宙人が出てきて

インタビューを受けている

「とつぜんのことでした

 ブランコに乗っていたら

 知らないおじさんが

 おいらのことを

 かわいいかわいいお嬢さん

 って呼ぶものだから

 おいらは宇宙人なのに

 お嬢さんだと思って

 おじさんの手に引かれて

 ぷらぷらついていったの

 知らないおじさんは宇宙人好きのする顔だったから

 おいらは

 てっきり

 おいらのことをお嬢さんだと思って

 それで

 縄でくくられて

 ぬるぬるした鼻息の荒い毛むくじゃらのタコのような不在の猫がニャンと鳴く」

お好み焼き屋のオヤジがタバコを道端に捨てて

つま先で火をもみ消した

バケツをさげたオバンがまたやってきた

「あたしの哲学によるとだね

 あんた

 運が落ちてるよ」

それを聞くなり

お好み焼き屋のオヤジが

バケツを持ったオバンの顔をガーンと一発殴ろうとしたら

反対に

オバンにバケツでどつかれて

頭を割って

さあたいへん

どじょうが出てきてコンニチハ

頭から

太ったうなぎほどの大きさのどじょうが出てきたの

どうしようもないわ

お好み焼き屋のオヤジは道端にしゃがんで

頭抱えて

思案中

「ところで

 明日の天気は晴れかな」

ぎらぎら光るぬるぬるした鼻息の荒い毛むくじゃらのタコのような不在の猫がニャンと鳴く

「晴れ

 ときどき曇り

 のち雨

 ときには豹も降るでしょう」

だれもがそう思いこんでいる

気がついたら

6時50分だった

ニュースが終わるよ

終わっちゃうよ

猫は不在である

というところで

人生の達人ともなれば

自分自身とも駆け引き上手である

勃起が自尊心を台無しにすることはない

理性に判断させるべきときに

理性に判断させてはいけない

わたしが20代の半ばくらいのときに

神について、とか

人間について、とか

愛について、とか

生きることについて、とか

そんなことばかりに頭を悩ませていたのは

そういったことばかりに頭を使っていたのは

真剣に取り組まなければならなかった身近なことから

ほんとうにきちんと考えなければならなかった日常のことから

自分自身の目を逸らせるためではなかったのだろうか

真剣に取り組んで、ほんとうにきちんと考えなければならなかった問題を

自分自身の目から遠くに置くためではなかったのだろうか

たとえどんなにブサイクな恋人でも

濡れた手で触れてはいけない

オハイオ、ヤバイヨ

愛はたった一度しか訪れないのか

why

Why



詩に飽きたころに

小説でオジャン

あれを見たまえ



角の家の犬

自分が飼われている家の近くにいるときには

とてもうるさく吠えるのに

公園の突き出た棒につながれたら

おとなしい



掲示板



イタコです。

週に二度、ジムに通って身体を鍛えています。

特技は容易に憑依状態になれることです。

しかも、一度に三人まで憑依することができます。

こんなわたしでよかったら、ぜひ、メールをください。

また、わたしのイタコの友だちたちといっしょに、合コンをしませんか?

人数は、四、五人から十数人くらいまで大丈夫です。こちらは四人ですけれど、

十数人くらいまでなら、すぐにでも憑依して人数を増やせます。

合コンのお申し込みも、ぜひぜひ、よろしくお願いいたします! (二十五才・女性会員)。



今朝、通勤の途中、新田辺駅で停車している普通電車に乗っていたときのことでした。

「ただいま、この電車は、特急電車の通過待ちのために停車しております。」

というアナウンスのあとに、「ふう。」と、大きなため息を、車掌がつきました。

しかし、まわりを見回しても、車掌のそのため息に耳をとめたひとは、ひとりもおらず

みんな、ふだんと同じように、居眠りしていたり、本を読んだりしていました。

だれひとり、車掌のため息を耳にしなかったかのように、だれひとり、笑っていませんでした。

笑いそうになってゆるみかけていたぼくの頬の筋肉が、こわばってひきつりました。



一乗寺商店街に

「とん吉」というトンカツ屋さんがあって

下鴨にいたころや

北山にいたころに

一ヶ月に一、二度、行ってたんだけど

ほんとにおいしかった

ただ、何年前からかなあ

少しトンカツの質が落ちたような気がする

カツにジューシーさがないことが何度かつづいて

それで行かなくなったのだけれど

ときたま

一乗寺商店街の古本屋「荻書房」に行くときとか

おしゃれな書店「恵文社」に行くときとかに

なつかしくって寄ることはあるんだけれど

やっぱり味は落ちてる

でも、豚肉の細切れの入った味噌汁はおいしい

山椒が少し入ってて、鼻にも栄養がいくような気がする

とん吉では、大将とその息子さん二人と奥さんが働いていて

奥さんと次男の男の子は、夜だけ手伝っていて

昼間は、大将と長男の二人で店を開けていて

その長男が、チョーガチムチで

柔道選手だったらしくって

そうね

007のゴールドフィンガーに出てくる

あのシルクハットを、ビュンッて飛ばして

いろんなものを切ってく元プロレスラーの俳優に似ていて

その彼を見に行ってるって感じもあって

トンカツを食べるって目的だけじゃなくてね

不純だわ、笑。

とん吉には

プラスチックや陶器でできたブタのフィギュアがたくさん置いてあって

お客さんが買ってきては置いていってくれるって

大将が言ってたけれど

みずがめ座の彼は



ぼくが付き合ってた男の子ね

ぼくがブタのフィギュアを集めてたことをすっごく嫌がっていた

見た目グロテスクな

陶器製の精巧なブタのフィギュアを買ったときに別れたんだけど

ああ、名前を忘れちゃったなあ

でも、めっちゃ霊感の鋭い子で

彼が遊びにきたら

かならず霊をいっしょに連れてきていて

泊まりのときなんか

ぼくはかならずその霊に驚かされて

かならずひどい悪夢を見た

彼は痛みをあんまり痛みに感じない子やった

歯痛もガマンできると言っていた

ぼくと付き合う前に付き合ってたひとがSだったらしくって

かなりきついSだったんだろうね

口のなかにピンポンの球みたいなものを

あのひも付きの口から吐き出させないようにするやつね

そんなものをくわえさせられて

縛られて犯されたって言ってたけど

そんなプレーもあるんやなって思った

痛みが快感と似ているのは

ぼくにもある程度わかるけど

そういえば

フトシくんは

ぼくを縛りたいと言ってた

ぼくが23才で

彼が二十歳だったかな

ラグビー選手で

高校時代に国体にも出てて

めっちゃカッコよかった

むかし

梅田にあったクリストファーっていうゲイ・ディスコで出会ったのね



一度

ホテルのエレベーターのなかで

ふつうの若いカップルと乗り合わせたことがあって

なぜかしらん、男の子のほうは

目を伏せて、ぼくらのほうを見ないようにしてたけど

女の子のほうは、目をみひらいて

ぼくらの顔をジロジロ交互にながめてた

きっと

ぼくらって

ラブラブのゲイカップルって光線を発してたんだろうね



あのエレベーターのなかじゃ、あたりまえか

ラブホだもんね

なにもかもがうまくいくなんて

けっしてなかったけれど

ちょっとうまくいくっていうのが人生で

そのちょっとうまくいった思い出と

うまくいかなかったときのたくさんの思い出が

いっぱい

いいっっぱい

you know

i know

you know what i know

i know what you know

同じ話を繰り返し語ること

同じ話を繰り返し語ること



地球のゆがみを治す人たち



バスケットボールをドリブルして

地面の凸凹をならす男の子が現われた

すると世界中の人たちが

われもわれもとバスケットボールを使って

地面の凸凹をならそうとして

ボンボン、ボンボン地面にドリブルしだした

そのたびに

地球は

洋梨のような形になったり

正四面体になったり

直方体になったりした



2008年4月22日のメモ(通勤電車のなかで)



手の甲に

というよりも

右の手の人差し指の根元の甲のほうに

2センチばかりの切り傷ができてた

血の筋が固まっていた

糸のようにか細い血の筋に目を落として考えた

寝ているあいだに切ったのだろうけれど

どこで切ったのだろうか

どのようにして切ったのであろうか

切りそうな場所って

テーブルの脚ぐらいしかないんだけれど

その脚だって角張ってはいないし

それ以外には

切るようなシチュエーションなど考えられなかった

幼いときからだった

目が覚めると

ときどき

手のひらとか甲とか

指の先などに

切り傷ができていることがあって

血が固まって

筋になっていて

指でさわると

その血の筋が指先に

ちょっとした凹凸感を感じさせて

でも

どこで

どうやって

そんな傷ができたのか

さっぱりわからなかったのだ

これって

もしかすると

死ぬまでわからないんやろうか

自分の身の上に起きていることで

自分の知らないことがいっぱいある

これもそのひとつに数えられる

まあ

ちょっとしたなぞやけど

ごっつい気になるなぞでもある

なんなんやろ

この傷

これまでの傷



彼女は手紙を書き上げると

彼に電話した

彼も彼女に手紙を書き終えたところだった

二人は自分たちの家の近くのポストにまで足を運んだ

二つのポストは真っ赤な長い舌をのばすと

二人をぱくりと食べた

翌日

彼女は彼の家に

彼は彼女の家に

配達された

そして

二人は

おのおの宛てに書かれた手紙を読んだ



きのうは

ジミーちゃんと

ジミーちゃんのお母さまと

1号線沿いの「かつ源」という

トンカツ屋さんに行きました。

みんな、同じトンカツを食べました。

ぼくとジミーちゃんは150グラムで

お母さまは、100グラムでしたけれど。

ご飯と豚汁とサラダのキャベツは

お代わり自由だったので

うれしかったです。

もちろん、ぼくとジミーちゃんは

ご飯と豚汁をお代わりしました。

食後に芸大の周りを散歩して

それから嵯峨野ののどかな田舎道をドライブして

広沢の池でタバコを吸っていました。

目をやると

鴨が寄ってくるので

猫柳のような雑草の先っぽを投げ与えたりして

しばらく、曇り空の下で休んでいました。

鴨は、その雑草の穂先を何度も口に入れていました。

「こんなん、食べるんや。」

「ぼくも食べてみようかな。」

ほんのちょっとだけ、ぼくも食べてみました。

予想と違って、苦味はなかったのですが

青臭さが、長い時間、残りました。

鴨のこどもかな

と思うぐらいに小さな水鳥が

池の表面に突然現われて

また水のなかに潜りました。

「あれ、鴨のこどもですか?」

と、ジミーちゃんのお母さまに訊くと

「種類が違うわね。

 なんていう名前の鳥か

 わたしも知らないわ。」

とのことでした。

見ていると、水面にひょっこり姿を現わしては

またすぐに水のなかに潜ります。

そうとう長い時間、潜っています。

水のなかでは呼吸などできないはずなのに。

顔と手に雨粒があたりました。

「雨が降りますよ。」

ぼくがそう言っても

二人には雨粒があたらなかったらしく

お母さまは笑って、首を横に振っていました。

ジミーちゃんが

「すぐには降らないはず。降り出すとしても3時半くらいじゃないかな。

 しかも、30分くらいだと思う。」

そのあと嵐山に行き

帰りに衣笠のマクドナルドに寄って

ホットコーヒーを飲んでいました。

窓ガラスに蝿が何度もぶつかってわずらわしかったので

右手の中指の爪先ではじいてやりました。

しばらくのあいだ、蠅はまるで死んだかのような様子をしていて、まったく動かなかったのですが

突然、生き返ったかのようにして動き出すと、元気よく隣の席のところにまで飛んでいきました。

イタリア語のテキストをジミーちゃんが持ってきていました。

ぼくも、むかしイタリア語を少し勉強していたので

イタリア語について話をしていました。

お母さまは音大を出ていらっしゃるので

オペラの話などもしました。

ぼくもドミンゴの『オセロ』は迫力があって好きでした。

ドミンゴって楽譜が読めないんですってね。

とかとか、話をしていたら

突然、外が暗くなって

雨が降ってきました。

「降ってきたでしょう。」

と、ぼくが言うと

ジミーちゃんが携帯をあけて時間を見ました。

「ほら、3時半。」

ぼくは洗濯物を出したままだったので

「夜も降るのかな?」って訊くと

「30分以内にやむよ。」との返事でした。

じっさい、10分かそこらでやみました。

「前にも言いましたけれど

 ぼくって、雨粒が、だれよりも先にあたるんですよ。

 顔や手に。

 あたったら、それから5分とか10分くらいすると

 それまで晴れてたりしてても、急に雨が降り出すんですよ。」

すると、ジミーちゃんのお母さまが

「言わないでおこうと思っていたのだけれど

 最初の雨があたるひとは、親不孝者なんですって。

 そういう言い伝えがあるのよ。」

とのことでした。

そんな言い伝えなど知らなかったぼくは、

ジミーちゃんに、知ってるの?

と訊くと、いいや、と言いながら首を振りました。

ジミーちゃんのお母さまに、

なぜ知ってらっしゃるのですか、とたずねると

「わたし自身がそうだったから。

 しょっちゅう、そう言われたのよ。

 でももう、わたしの親はいないでしょ。

 だから、最初の雨はもうあたらなくなったのね。」

そういうもんかなあ、と思いながら聞いていました。

広沢の池で

鴨がくちばしと足を使って毛繕いしていたときに

深い濃い青紫色の羽毛が

ちらりと見えました。

きれいな色でした。

背中の後ろのほうだったと思います。

鴨が毛繕いしていると

水面に美しい波紋が描かれました。

同心円が幾重にも拡がりました。

でも、鴨がすばやく動くと

波紋が乱れ

もう美しい同心円は描かれなくなりました。

ぼくは振り返って、池に背を向けると

山の裾野に拡がる畑や田んぼに目を移しました。

そこから立ち昇る幾条もの白い煙が、風に流されて斜めに傾げていました。



ようやく珍しい体位の暗い先生に

イカチイ紅ヒツジの映像が眼球を経巡る。

なんと、現在、8回目の津波に襲われている。

ホームレスリングのつもり。

段取りは順調。

声が出てもいいように

洗濯機を回している。

ファンタスティック!

イグザクトゥリー?

アハッ。

ジャズでいい?

オレも、ジャズ聴くんすよ。

ふたたび、手のなかで、眼球がつるつるすべる。

ふたたび、目のなかで、指がつるつるすべる。

777 Piano Jazz。

事件が起こった。

西大路五条のスーパー大国屋の買い物籠のなかで

秘密指令を帯びた主婦が乳房をポロリ。

吸いません。

違った、

すいません。

老婆より中年ちょいブレ気味の一条さゆり似のメンタ。

火曜日午後6時30分発の

恋のスペシャル。

土俵を渡る。

つぎは難儀。

つぎはぎ、なんに?

SМILE。

「有名な舌なの?」

吸われる。

「有名な死体なの?」

居据わられる。

「有名な体位なの?」

坐れる。

こころが言い訳する。

いろいろ返します。

ポイント2倍デイ、特別価格日・開催中。

窓々のガラスに貼られた何枚もの同じ広告ビラ。

このあいだ恋人と別れたんやけど

いまフリーやったら、付き合ってくれる?

別れる理由はいろいろあったんやけど

なんなんやろね、なんとなくね。

とてもいい嘘だよ。

理由は、ちゃんとある。

ある、ある、ある。

ちゃんと考えてある。

いまなら、送料 + 手数料=無料。

YES OR NO?

YOU OK?

もうなにも恐れません。

あなたの買いたい=自己解体。

生まれ変わった昭和の百姓、二百姓。

ってか、なんだか、変なんです。

生きるって、なんて、すばらしいの?

なにも言ってませんよ。

紅ヒツジのイカチイ映像が

ぼくの過去の異物に寄り添っている。

喉越しが直撃する。

言下に垂下する。

期間限定の奴隷に参加。

面白いほど死ぬ。筋肉麻痺が分極する。

前半身31分。後ろ半身32分。横半身30分ずつ。

今後も、足の指は10本ずつ。

動いたり止まったりします。

念動力で動く仕組みです。

メエメエと鳴く一頭の紅ヒツジが

ぼくの耳のなかに咲いている。

基本、暑くないですか?

きわめて重要な秘密指令を

週5日勤務のレジ係のバイトの女の子が

パチパチとレシートに打ち出す。

(なぜだか、彼女たちみんな、眉毛をぶっとく描くのねん。)

エクトプラズムですもの。

はげしいセックスよりも、ソフトなほうがいいの?

紅ヒツジは全身性感帯だった。

柔道とカラテをしていた暗い先生は

体位のことしか考えている。

倫理に忠実な自動ドアが立ち往生している。

「有名な下なの?」

「有名な上なの?」

「有名な横なの?」

右、上、斜め、下、横、横、後ろ、前、左、ね。

じゃあ、こんどはうつぶせになって。

ぼくの有名な死体は彼の舌の上を這う。

彼の下の上を這う。

ルッカット・ミー!

do it, do it

一日は17時間moあるんだから

エシャール

そのうち、朝は15時間で、お昼は20時間で、夜は15時間moあるんだから

すぇ絵tすぇ絵tもてぇr府c家r

sweet sweet mother fucker

チョコレートをほおばる。

スニッカーズ、9月中・特別価格98円。

気合を入れて、プルプル・グレープを振る。

とても自由な言い訳で打ち震える。

きみの6時30分にお湯を注ぐ。

どんなに楽しいことでも

180CC。

きょうは実家に帰るんです。

紅ヒツジの覚悟の体位に

暗い先生は厳しい表情になる。

主婦が手渡されたレシートには、こう書いてあった。

「計¥ 恥ずかしい」

暗い体位を見つめている先生は

しばしば解釈の筋肉が疲労している。

ふだんはトランクス。

「なに? このヒモみたいなの↓」

自販機で彼に買ってあげた缶コーヒーに口をつける。

右、上、斜め、下、横、横、後ろ、前、左、ね。

ぼくのジャマをしないで。

恋人になるかどうかのサインを充電している。

道徳は、わたしたちを経験する。

everything keeps us together

指が動くと、全身の筋肉が引き攣れ

紅ヒツジの悲鳴が木霊する。

採集された余白が窓ガラスにビリビリと満ち溢れる。

「このテーブル、オレも使ってました。

 オレのは、黒でしたけど。」

どこまで、いっしょなの?

この十年間、付き合った子、

みんな、ふたご座。

なんでよ?

そのうち、二人は誕生日が同じで、血液型も同じ。

すっごい偶然じゃん。

それとも、偶然じゃないのかな。

名前まで、ぼくとおんなじ、田中じゃんか!

いくら多い名前だからってさあ。

それって、ちょっと、ちょっと、ちょっとじゃなあい?

それじゃあ、ピタッと無責任に歌っていいですか?

いいけどお。

採集された余白が窓ガラスにビリビリと満ち溢れる

西大路五条のスーパー大国屋の買い物籠のなかで

秘密指令を帯びた主婦が乳房をポロリ。

ポロリポロリのポロリの連発に

暗い体位の先生が自動ドアのところで大往生。

違った、

大渋滞。

ピーチク・パーチク

有名な死体が出たり入ったり

繰り返し何度も往復している。

紅ヒツジの全身の筋肉が引き攣れ

レジ係の女の子の芸術的なストリップがはじまる。

あくまでも芸術的なストリップなのに

つぎつぎと生えてくる

一期一会のさえない男たちの客の目がギロリ、ギロリ。

もう一回いい?

さすがに、いいよ。

ほんまやね。

2割引きの398円弁当に一番絞りの缶が混じる。

まとめて、いいよ。

持っておいで。

フリーズ!

ギミ・ザ・ガン!

ギミ・ザ・ガン!

カモン!

やさしいタッチで

見せつける。

よかったら、二回目も。



で、

それで

いったい、神さまの頬を打つ手はあるのか?

アロハ・

オエッ



さっき、うとうとと、眠りかけていて

ふとんのなかで、ふと

「恋愛増量中」なる言葉がうかんだ。

何日か前に、シリアルかなんかで

「増量20グラム」とかとか見たからかも

いや、きょう買ったアルカリ単三電池10個が

ついこのあいだまで、増量2本で1ダース売りだったのに

買っておけばよかったな、などと

朝、思ったからかもしれない。

いや、もしかしたら、いま付き合ってる恋人に対して、

そう感じてるからかもしれない。

どこまで重たくなるんやろうかって。

へんな意味ではなくて

いい意味で。



ケンコバの夢を見た。

ケンコバといっしょに

無印良品の店に

鉛筆を買いに行く夢を見た。

けっきょく買わなかったのだけれど

鉛筆の書き味を試したりした。

帰りに、その店の出入り口のところで

「おれの頭の匂いをかいでみぃ。」とケンコバに言われて

かいでみたけれど、ふつうに、頭のにおいがして

そんなに不快やなかったけど

ちょっと脂くさい頭のにおいがして

べつにシャンプーやリンスのいい匂いではなかった。

「ただの頭のにおいやん。」と言うと

「ええ匂いせえへんか。」と言われた。

「帰り道、送って行ったるわ。

 祇園と三条のあいだに中村屋があったやろ、

 その前を通って行こ。」

と言われたが、チンプンカンプンで

それは、いまぼくが住んでるところとはまったく違う場所だし

祇園と三条のあいだには中村屋もない。

しかし、芸能人が夢に出てくるのは、はじめて。

むかし、といっても、5、6年前のことだけど

ひと月くらい、北山でいっしょに暮らしていた男の子がいて

きのう、その子とメールのやりとりをしたからかなあ。

髪型は、たしかにいっしょやけど

顔や体型はぜんぜん違うしなあ。

なんでやろ、ようわからん。

しかし、いやな夢ではなかった。

むしろ、楽しい夢やった。

ずっとニコニコ顔のケンコバがかわいかった。



お皿を割ったお菊を

お殿様が

切り殺して

ブラックホールのなかにほうり込みました

読者のみなさんは

ブラックホールから

お菊さんが幽霊となって出てきて

お皿を、一枚、二枚、三枚、……と九枚まで数えて

一枚足りぬ、と言う姿を想像されたかもしれませんが

あにはからんや

お菊さんがホワイトホールから

一人、二人、三人、……と

無数の不死身の肉体を伴ってよみがえり

そこらじゅう

ビュンビュンお皿を飛ばしまくりながら出てきたのでした

いまさらお殿様を恨む気持ちなどさらさらなく

楽しげに

満面に笑みをたたえながら



ウンコのカ

ウンコの「ちから」じゃなくってよ

ウンコの「か」なのよ

なんのことかわからへんでしょう

虫同一性障害にかかった蚊で

自分のことを蠅だと思っている蚊が

ウンコにたかっているのよ

うふ〜ん



毎晩、寝るまえに枕元に灰色のボクサーパンツを履いたオヤジが現われ

猫の鞄にまつわる話をする金魚アイスのって、どうよ!

灰色のパンツがイヤ!

赤色や黄色や青色のがいいの!

それより

間違ってっぽくない?

金魚アイスのじゃなくって

アイス金魚のじゃないの?

たくさんの猫が微妙に振動する教会の薔薇窓に

独身の夫婦が意識を集中して牛の乳を絞っているのって、どうよ!

こんなもの咲いているオカマは

うちすてられて

なんぼのモンジャ焼き

まだやわらかい猫の仔らは蟇蛙

首を絞め合う安楽椅子ってか

やっぱり灰色はイヤ!

赤色や黄色や青色のがいいの!



院生のときに

宇部のセントラル硝子っていう会社のセメント工場に見学に行ったときのこと

「これは塩です」

そう言われて見上げると

4、5階建てのビルディングぐらいの高さがあった

塩の山

そこで働いている人には

めずらしくともなんともないものなのだろうけれど



自由金魚

世界最大の顕微鏡が発明されて

金属結晶格子の合間を自由に動きまわる金魚の映像が公開された。

これまで、自由電子と思われていたものが

じつは金魚だったのである。

自由金魚は、金属結晶格子の合間を泳ぎまわっていて

金属結晶格子の近くに寄ると

まるで金魚すくいの網を逃れるようにして、ひょいひょいと泳いでいたのである。

電子密度は、これからは金魚密度と呼ばれることになり

物理とか化学の教科書や参考書がよりカラフルなものになると予想されている。


ベンゼン環の上とか下とかでも、金魚たちがくるくるまわってるのね。

世界最大の顕微鏡で見るとね。



金魚蜂。

金魚と蜂のキメラである。

水中でも空中でも自由に泳ぐことができる。

金魚に刺されないように

注意しましょうね。



金魚尾行。

ひとが歩いていると

そのあとを、金魚がひゅるひゅると追いかけてくる。



近所尾行。

ひとが歩いていると

そのあとを、近所がぞろぞろぞろぞろついてくるのね。

ありえるわ、笑。



現実複写。

つぎつぎと現実が複写されていく。

苦痛が複写される。

快楽が複写される。

悲しみが複写される。

喜びが複写される。

さまざまな言葉たちが、さまざまな人間たちの経験を経て、現実の人間そのものとなる。

さまざまな形象たちが、さまざまな人間たちの経験を得て、現実の事物や事象そのものとなる。



顔は濡れていた。

ほてっていたというわけではない。

むしろ逆だった。

冷たくて、空気中の水蒸気がみな凝結して露となり、

したたり落ちているのだった。

身体のどこかに、この暗い夜と同じように暗い場所があるのだ。

この暗い夜は、わたしの内部の暗い場所がしみ出してできたものだった。

わたしの視線に満ち満ちたこの暗い夜。



あらゆるものが機械する。

機械したい。

機械される。

あらゆるものが機械する。

機械したい。

機械される。

あらゆる機械は機械を機械する。

あらゆる機械を機械に機械する。

あらゆる機械に機械は機械する。

機械死体。

故障した機械蜜蜂たちが落ちてくる。

街路樹が錆びて金属枝葉がポキポキ折れていく。

電池が切れて機械人間たちが静止する。

空に浮かんだ機械の雲と雲がぶつかって

金属でできたボルトやナットが落ちてくる。

あらゆるものが機械する。

機械したい。

機械される。

あらゆるものが機械する。

機械したい。

機械される。

あらゆる機械は機械を機械する。

あらゆる機械を機械に機械する。

あらゆる機械に機械は機械する。



葱まわし 天のましらの前戯かな

孔雀の骨も雨の形にすぎない



べがだでで ががどだじ びどズだが ぎがどでだぐぐ どざばドべが



四面憂鬱

誌面憂鬱

氏名憂鬱

四迷憂鬱

4名湯打つ

湯を打つ?

意味はわからないけど

なんだか意味ありげ

湯を打つと

たくさん賢治が生えてくるのだった

たとえば、官房長官のひざの上にも

スポーツキャスターの肩の上にも

壁に貼られたポスターの上にも

きのう踏みつけた道端の紙くずの上にも

賢治の首がにょきにょき生えてくるのだった

身体はちぢこまって

まるで昆虫のさなぎみたいに

小さい

窓々から覗くたくさんの賢治たち

さなぎのようにぶら下がって

窓々の外から、わたしたちを覗いているのだ

「湯を打つ」の意味を

こうして考えてみると

よくわかるよね

キュルルルルル

パンナコッタ、

どんなこった



さっき

散歩のついでに

西院の立ち飲み屋にぷらっと寄って

飲んでいました。

むかし

「Street Life.」って、タイトルで

中国人の26才の青年のことを書いたことがあって

立ち飲み屋の客に

その中国人の青年にそっくりな男の子がいて

やんちゃな感じの童顔の男の子で

二十歳過ぎくらいかな

太い大きな声で、年上の連れとしゃべっていました。

ときどき顔を見ていたら

やっぱりよく似ていて

そっくりだったなあ

と思って、帰り道に

その男の子と

中国人の青年の顔を思い浮かべて

ほんとによく似ていたなあと

ひとしきり感心して

ディスクマンで、プリンスの

Do Me,Baby を聴きながら

帰り道をとぽとぽと歩いていました。

もしかしたら、錯覚だったのかもしれません。

あの中国人の青年のことを思い出したくて、似ているなあと思ったのかもしれません。

いまでも、しょっちゅう、あの中国人青年の声が耳に聞こえるのです。

おれ、学歴ないやろ。

中卒やから

金を持とうと思うたら、風俗でしか働けへんねん。

そやから、風俗の店で店長してんねん。

一日じゅう、働いてんでえ。

そんかわり、月に50万はかせいでる。

たしかに、そんな感じだった。

ぼくと出会った夜

おれがホテル代は出すから

ホテルに行こう

って、その子のほうから言ってきて

帰りは、自分の外車で送ってくれたのだけれど。

さっき立ち飲み屋で話してた青年も

あどけない顔して、話の中身は風俗だった。

まあ、客にそのときはまだ女がいなかったからね。

でも、ほんとに風俗が好きなのかなあ。

このあいだ、よく風俗に行くっていう、24才の青年に

痛くない自殺の仕方ってありますか、って訊かれた。

即座に、ない、とぼくは答えた。

その子も童顔で、すっごくかわいらしい顔してたのだけれど。

おれ、エロいことばっかり考えてて、女とやることしか楽しみがないんですよ。

いたって、ふつうのことだと思うのだけれど。

それが、死にたいっていう気持ちを起こさせるわけでもないやろうに。

そういえば、あの中国人青年も、風俗の塊みたいな子やった。

おれ、女と付きおうてるし、女好きなんやけど

ときどき、男ともしたくなるねん。

おっちゃん、SMプレーってしたことあるか?

梅田にSMクラブがあんねんけど

おれ、月に一回くらい行ってんねん。

おれ、女とやるときには、おれのほうがSで、いじめたいほうなんやけど

男とするときには、おれのほうがいじめられたいねん。

おっちゃん、おれがしてほしいことしてくれるか?

って、そんなこと、ストレートに訊かれて

ぼくは

ぼくの皮膚はビリビリと震えた。



三日ぶりに

仕事場に彼が出てきた

愛人のわたしの前で他人行儀に挨拶する彼

そりゃまあ仕方ないわね

ほかのひとの目もあるんですもの

それにしてもしらじらしいわ

彼は首に娘を巻きつかせていた

「このたびはご愁傷様でした」

彼女は三日前に死んだ彼の娘だった

死んだばかりの娘は

彼女の腕をしっかり彼の首に巻きつけていた

彼の首には

三年前に死んだ彼の母親もぶらさがっていた

母親の死体はまだまだ元気で

けっして彼から離れそうになかった

その母親の首には

彼の祖父母にあたる老夫婦の死体がぶらさがっていた

もうほとんど干からびていたけど

そんなに軽くはないわね

わたしの目の前を彼が通る

机の角がわたしの腰にあたった

彼の足下にしがみついて離れない

去年の暮れに死んだ彼の奥さんが

わたしの机の脚に自分の足をひっかけたのだ

いつもの嫌がらせね

バカな女

でも彼のやつれた後ろ姿を目にして

彼とももうそろそろ別れたほうがいいのかなって

わたしはささやきつぶやいた

わたしの首に抱きついて離れないわたしの死んだ夫に



「言葉とちゃうやろ

 好きやったら、抱けや」

数多くのキッスと

ただ一回だけのキス

むかし、エイジくんって子と付き合っていて

その子とのキッスはすごかった

サランラップを唇と唇のあいだにはさんでしたのだ

彼とのキスはそれ一回だけだった

一年間

ぼくは彼に振り回されて

めちゃくちゃな日々を送ったのだ

ぼくは一度も好きだと言わなかった

彼もまた、ぼくのことを一度も好きだと言わなかった

お互いに

ぜんぜん幸せではなかった

だけど

離れることができなかった

一年間

ほとんど毎日のように会っていた

怒濤のような一年が過ぎて

しばらくぼくのところに来なくなった彼が

突然、半年振りに

ぼくの部屋に訪れて

男女モノのSMビデオを9本も連続してかけつづけたのだ

わけがわからなかった

「たなやんといても

 俺

 ぜんぜん幸せちゃうかった

 ほんまに

 きょうが最後や

 二度ときいひんで」

「元気にしとったん?」

「俺のことは

 心配せんでええで

 俺は何があっても平気や」

ぼくは30代半ば

私立高校で数学の非常勤講師をしていた

彼は京大の工学部の学生で柔道をしていた

もしも、もう一度出会えたら

彼に言おうと思ってる言葉がある

「ぼくも

 きみといて

 ぜんぜん幸せちがってた

 だけど

 いっしょにいなかったら

 もっと幸せちごうたと思う

 そうとちゃうやろか」



この齢になっても

愛のことなど、ちっとも知らんぼくやけど

「俺といっしょに行くんやったら

 きたない居酒屋と

 おしゃれなカフェバーと

 どっちがええ?」

「カフェバーかな」

「俺は居酒屋や

 そやからインテリは嫌いなんや」

「きみだってインテリだよ」

「俺のこと

 きみって言うなって

 なんべん言うたらええねん

 むっかつく」

ぼくは、音楽をかけて本を読み出す

きみは、ぼくに背中を向けて居眠りのまね

いったい、なにをしてたんだろう

ぼくたちは

いったい、なにがしたかったんだろう

ぼくたちは

ぼくは気がつかなかった

きみと別れてから

きみに似た中国人青年と出会って

ようやく気がついた

きみが、ぼくになにを望んでいたのか

きみが、ぼくにどうしてほしかったのか

ぼくたちは

ぼくたちを幸せにすることができなかった

ちっとも幸せにすることができなかった

それとも、あれはあれで

せいいっぱいの幸せやったんやろか

あれもまたひとつの幸せやったんやろか

よく考えるんやけど

もしも、あのとき

きみが望んでたことをしてあげてたらって

もちろん、幸せになってたとは限らないのだけれど

考えても仕方のないことばかり考えてしまう

つぎの日の朝のトーストとコーヒーが最後やった

二度とふたたび出会わなかった



単為生殖で増えつづける工事現場の建設労働者たちVS真っ正面土下座蹴り

&ちょい斜め土下座蹴り&真っ逆さま土下座蹴り



いつの間に

入ってきたのだろう

窓を開けたのは

洗濯物を取り入れる

ほんのちょっとのあいだだけだったのに

蚊は

姿を現わしては消える

音楽をとめて

蚊を見つけることにした

本棚のところ

すべての段を見ていく

パソコンの後ろをのぞく

CDラックもつぶさに見ていく

ふと思いついて

箪笥を開ける

箪笥を閉める

振り返ると

蚊がいた

追いつめてやろうとしたら

姿を消す

パソコンの前に坐って

横目で本棚のところを見ると

蚊がいた

やがて

白い壁のところにとまったので

しずかに近づいて

手でたたいた

つぶした

と思ったら

手には何の跡もない

ぼくは

白い壁の端から端まで

つぶさに見ていった

蚊はどこにもいなかった

ふと、壁の中央に目がひきつけられた

壁紙の一部がぽつりと盛り上がり

それが蚊に変身したのだ

そうか

蚊はそこから現われては

そこに姿を消していったんだ

ぼくは

壁面を

上下左右

全面

端から端まで

バシバシたたいていった

ぼくは、どっちを向けばいい?



倫理的な人間は、神につねに監視されている。



会話するアウストラロピテクス



あのひとたちは長つづきしないわよ

どうして?

わたしたちみたいに長いあいだいっしょにいたわけじゃないもの

そんな言葉を耳にしてちらっと振り返った

よく見かける初老のカップルだった

たぶん夫婦なのだろう

バールに老人たちがいることは案外多くて

それは隣でバールの主人の父親が骨董品屋を開いていて

というよりか

骨董品屋のおじいさんの息子が

骨董品屋の隣にバールをつくったのだけれど

だからたぶんそのつながりで老人が多いのだろう

洛北高校が近くて

高校生がくることもあったのだけれど

客層はばらばらで

あんまりふつうの感じのひとはいなくて

クセのある個性的なひとが集まる店だった

西部劇でしかお目にかからないようなテンガロンハットをかぶったひととか

いやそのひとはときどき河原町でも見かけるからそうでもないかな

マスターである主人は芸術家には目をかけていたようで

店内には客できていた画家の絵が掲げてあったり

大学の演劇部の連中の芝居のチラシが貼ってあったり

ぼくも自分の詩集を置かせてもらったりしていた

老夫婦たちが話題にしていた人物が

じっさいには何歳なのか

具体的にはわからなかったけれど

年齢差のあるカップルについて話していたみたいで

あの若い娘とは知り合ったばかりでしょ

とか言っていた



バール・カフェ・ジーニョ

下鴨に住んでいたころには毎日通っていた

ぼくの部屋がバールの隣のマンションの2階にあったから

いまでも、コーヒーって、200円なのかな



さっき

「会話するステテコ」って

突然おもい浮かんだのだけれど

意味がわからなくて

というのは

ステテコが何かすぐに思い出せなくて

ステテコに近い音を頭のなかでさがしていたら

アウストラロピテクス

って出てきた



ステテコって

フンドシのことかな

って思っていたら

いま思い出した

パッチのことやね



ステテコ

じゃなくて

フンドシで思い出した

むかし、エイジくんが

フンドシを持ってきたことがあって

「これ、はいて見せてや」

と言われたのだけれど

フンドシなんて

はいたことなくって

けっきょく

はいたかどうか

自分のフンドシ姿の記憶はない

ただ、「やっぱり似合うなあ」って

なんだか勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら言う

エイジくんの顔と声の記憶はあって

当時は、ぼくも体重が100キロ近くあったから

まあ、腹が出てて、ふともももパンパンやったから

似合ってたのかもしれない

はいたんやろうね

なんで憶えてへんのやろ



フンドシは

白の生地に●がいっぱい

やっぱり

●とは縁があるんやろうなあ



これはブログには書けないかもね

フンドシはなあ



どうして、ぼくは、きみじゃないんやろうね。

どうして、きみは、ぼくじゃないんやろうね。



フンドシはなあ。