秋は正午、いましも
日が傾くとき
私は荒れ地の高みにつっ立つ古い木杭だった、しかも
荒れ地の高みにつっ立つ古い木杭は私だった
私は木杭として
地に穿たれ微動だにできない
それが悪い事態とは考えない
つまり、考えない
自分の身柄を見ることはない
ただ、砂地におちている棒状の影に私を見出す
先端に一羽の鳥の影を見ることもある
影の傍らには、一輪の白い花が咲く
影が移り花を暗くする
すぐ明るくなる
見晴るかす地平の一画
石の街区を曲がっていくあの私
一脈の川を渡っていくあの私
そんなふうに
幾多の私が私を剥がれ、去った
あの私らはもはや私を捨てた
私も捨てた
私は木杭として
楽しくも悲しくもない
たとえば、葉擦れの囁き、線虫が描く数字、砂の上の発条
身辺の
ありもしない謎に遊ぶことはある
私は木杭として
つねに、とても気持ちよく私を忘却する
荒れ地の高みにつっ立つ古い木杭は私を忘却する
選出作品
作品 - 20101020_814_4770p
- [佳] 木杭 - 鈴屋 (2010-10)
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木杭
鈴屋