選出作品

作品 - 20100612_288_4465p

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風紋をかぞえて

  ひろかわ文緒


垂直に
しろい花弁のうえを
踏んでゆく足
には、どれだけの空

あったの

  *
血のちった
猫のなきがらを葬る
手はひとしく、やわらかい
猫、きえた
道路にはおもかげが
のこり、けれど
それさえも次第に失われてゆくん、だ、よ
モミジバスズカケから斜めに
こぼれるひかりの、腕

  *
幼いころは、大抵
座敷のすみで
たいらな花器にいけられていた
剣山がざくりと
肌を突きぬけ
肉をおし分けてゆくのを
感覚として理解、して
あらかじめ
痛点もないから
ほとんどうつくしく
なかった、と
記憶のそとの、おもいでを捨てた

  *
昨夜、さんざんに降った雨が
けぶって、町は
おだやかな
波のなか
しずかに
あらわれている

  *
かつてわたしにも
体温があったのだと云う
けれども、うまれてすぐに
みるみるつめたくなったから
気のせい
だったかもしれない、と母は云った
躰のとなりを
まあたらしい子どもたちが
さんざめきながら
学校へゆく

  *
ところどころ
ぬかるんだ躰に
染みこんでくるものを
ようやくみとめて
此処にいる
わずか、折れ曲がった嘴の鳥が
飛びたち
かざきりばねの鳴る、空の
底に、いる
しろい花弁のした
わたしは凹凸として
いのちごと蠢く