選出作品

作品 - 20100423_200_4340p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


L’ecume de Gabriel

  はなび


シャンパンの泡のような花のトンネルをぬけると
階段があって
階段はコンクリートでできていて
ところどころが欠け落ちていた

すり硝子の幾何学模様を指で辿るように
錆びた手すりの感触を確かめる
赤茶色の金属の匂いが
マチ針を刺す

馬の蹄鉄を穿ってやる
鑼のように鍋を鳴らす
恋人達は深夜零時
思い出を食べあい
消えてゆく為の
祝宴をくりかえす

あなたの足の親指の骨の出っぱったところが素敵だとか
きみのひんやりとした脇腹の脂肪がたまらないだとか
ほっぺをつねりあう 鼻をこすりあう 髪をひっぱりあう

思い出に飽きる頃nemuriがやってくる



sex pistolsのようなオレンジ色のあたま
小さなナイフと一緒にバスルームで待っている
rocksteadyのリズムに乗って
バスタブにシャンパンを流し込む
恋人同士を他人同士に戻してやるのが仕事

稼いだコインは泉に投げ込む
「もう少し背が伸びますように」

ちいさなnemuriの小さな願い



シャンパンの泡のような花のトンネルをぬけると
階段があって
階段の先にドアがあって大きな音の
マネキンのような人体

ところどころ剥げ落ちた先から
指に伝わる体温の蒸気

待合室のソファーのスプリングに
尻を乗せて数センチ浮遊する
カーペットの色について

toilet paperがホルダーを鳴らしながら
ほそく しろく たなびく 青空の下

ネズミがカリカリ齧り続けるデザインの
明日の朝の目覚まし時計という名前の
新しいTシャツを着た
ガブリエル

おはよう