選出作品

作品 - 20100115_888_4085p

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蒲公英の咲く散歩道

  はなび


昼間に起きて花江はドブ川に沿って散歩する
青い空 橙色に膨張している日光がまぶしい

目眩 ゆうべの会話 
もっと猥褻にもっと卑猥に
もっと生き物らしくぼくを愛して

腐りかけた林檎から漂う独特の香り
わたしは 冬の日射しに
ふらふらになって
フラン フラン 腐乱 と
ハミングする

窓辺に寝そべって
おとこをみている


その男は白いシーツの中で
キリストの様に痩せてゆく

ポルトガルの教会にあるような
黒く骨張った重たそうな四肢に
なにか可愛らしい装飾をしたく

心臓を象ったような深い葡萄色の壜から
パルファンを垂らした

それはいつか空港で
退屈まぎれに買い物した
クリスチャンディオールの
毒という名前の濃厚な香り

花江チャン、君にぴったりなおもしろいものを見つけたよ

当時退屈まぎれに付き合っていたポルトガル語の教授が
フランクフルトでルフトハンザに乗り換える時に言った

このひとは一体わたしの何を知っているというのだろう

それから何年も過ぎた今でも
教授は律儀にもわたしの誕生日に手紙をよこす
どのような仕事をしたか
どのような本を読んだか
仔細に綴ってある 
小さな字で

わたしは何年も過ぎた今でも何も変わらない
特別に何かが得意だとかできるとか知識があるとか何も持たず
このドブ川のような生活の汚水をたらたら流している

その沿道に蒲公英が咲いてるの
それがいかにも健気に見えて
涙がでてくるのよなんだか変ね

冬だというのに暑いじゃない
気候のせいだと思うけどふらふらする
フラン 腐乱 フラン と
ハミングが聞こえる

直射日光が膨張して背景が遠くなる
目眩を引きずる様に影ばかりが濃く長く伸び
地面に打ち捨てられた様に朽ち果てている

その影を踏んで歩く 
踏みつける様にして

蒲公英は黄色くて葉は濃い緑

空は青くて太陽は橙色に脹らんで

影は黒く色のあるものは皆ハッキリと

ドブ川の散歩道をうつくしくいろどり

猥褻な生命をかがやかしくおおっぴらにひけらかしながら

何か知っているのよ わたしのこと

このままいけばどこにたどりつくのか

いまさらさわいだってもうおそい

丁寧な手紙はちがった道へ誘導している

間違っていないのはよくわかる

蒲公英の様に健気なら

それだけでも価値があるもの