ぽろぽろのゆきあかり
糸をよじったような地方都市のまん中で
僕は只ならぬひよっとこ面を見つける
ときどき誰よりもしんとして
とおくでぶちまける水のおとをきく
まあたらしいひよっとこ面の
人形のような肌のおとろえ
むかむかする唇に手をあてなくても
これはきちがいじみた顔のまま
うすく呼吸しているのがわかる
ぎょろっとしたおどけた眼
―こいつ口づけを待っているな
すばやい身のこなしを自慢に
僕がはたきたおせばぎゃっと大袈裟
見下ろしてもそのままのひよっとこ面だ
半分埋もれた口のすいはき
ゆきが横殴りのようにわり込んできて
僕をゆっくり押しひろげる
僕は恥ずかしくてくるしすぎるのだ
―ゆきはどうして色白なのか
顔に文字をかかれているような気がする
ひげのない自分の頬を
ひたひた鳴らすようにいく
へんに寝静まった地方都市のよるを
僕は全身を線のほそさにして
だんだんに小走りする
よそ者のようにちいさくゆきをとらえ
家は二階だてのかたい都市
家壁に染みをとばす夜半の舗装路で
こける気がする
ライトを切るまあるい水たまり
ばしゃっと指のまたから水をはねあげ
これはまるで獣姦の姿勢
下から てん滅する除雪車を待つとき
平たいなと思う
―ほんとうにセカイはひらたい
―でも これほどに
電柱をひき抜いても同じことだろうか
僕は除雪車のつくる人肌のみちにいて
紅くはれあがるゆき
ぶちまける水のおとをきく
しんとした車道から見あげるだけで
これほどに胸くるしい銀の世界か
―ひっそりといる
―そう さけおちているな
ゆきが人形のように耳もとに立つ
これはひよっとこ面をして口づけを迫るのだ
選出作品
作品 - 20091229_565_4049p
- [優] ひょっとこ - がれき (2009-12)
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