電柱がかたむいていて
煙りもかたむいてのぼる田舎の町で
女が荷札の顔して
ひとりくらしてた
路地には蜆の殻がしいてあって
木のサンダルがばちばち鳴った
晴れた日には
顔がかわいてめくれるから
頬に両手をあててた
雨がふると
蟹が畳にあがってきて
彼女の足うらの垢をけずって食べた
裏庭のむこうをはしる
ディーゼル車の警笛を聴いても
なにもおもわないで
毎日しずかに
くらしてた
ぼくがただ一度きり彼女をみたのは
ディーゼル車の窓からだった
戸口にかたむいてたって
どこかをみてた
そのときも
ちいさな荷札の顔してた
選出作品
作品 - 20091215_239_4024p
- [優] 荷札の顔 - 鈴屋 (2009-12)
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荷札の顔
鈴屋