孤島のようにぽつんと
うずくまる港は
そろそろ瓦斯灯の蒼白く灯り
汐を冷たくしている
子どものわすれた片方だけのサンダルが
あしたの雨を知らせている
ふと、最終フェリーの汽笛が鳴り響いた
わたしのちいさな心臓をも
揺らして、遠くまで
心臓を揺らして、響く
反響し返ってくるまでのあいだを
高揚して待つ
目をつむり待つ
何がそんなにかなしいのか、と
詩人は云う
冬になれば彼らは
脂肪の代わりにくらやみを含み
夜とひとしくなってゆく
声と水だけを循環させて生きるのだ、と
差しだした林檎を丁寧にことわる
ことわられた林檎を
わたしは食む
そうして、あらわれた未熟な
白い果実は
あしたの雨を、知らない
選出作品
作品 - 20091124_654_3971p
- [佳] Reincarnation - ひろかわ文緒 (2009-11)
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Reincarnation
ひろかわ文緒