選出作品

作品 - 20091123_647_3970p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


あなたの街の夜

  鈴屋

あなたをさがしに、地平をさ迷い
散らばるあなたを区分けする
 
眸は暮れ、唇は雲に刷かれ
空を噛むあなたの歯形が街になった、つきない嘘が窓をならべた
そ知らぬふりをしているので、外灯の灯が坂を駆けのぼる 

高架電車の窓明かりがリボンのように結ばれ、ほどける
夕闇に浮かぶ噴水、一瞬、静止する水の粒の煌き
かつてあなたは化石の子宮を博物館にあずけた

垂直に裂けているあなた、その滲む血と微笑を私に与えることなく 
とおく立ち去りながら、ささやく

 「冷たいタクシーにお乗りなさい
  知らない街の冷たいバーで、知らないわたしにするように、冷たいウォトカをなめなさい」

地平線のふたつの乳房を十三夜の月が照らす 
横たわる裸体の、額から爪先までのはてしない距離
林立する白蝋の街、芒ヶ原、道のはたの霜枯れの菊花

足許から延べられていく、あなた
あなたの土と砂

夜空の高み、電飾の娼婦が神をいだく
街角が影を曲げていく、靴音が耳の回廊をめぐる
壁という壁でひとりの女の舞踏が乱れる
ついに私はあなたの液体を知らない

たどりつけない星空の凍るベッドで
あなたがあまりに死に近く眠るので、街は浸水する
人や家具や犬、鼠や虫や木、るいるいと浮かび、安らぎ、憩う

明けやらぬ街に満ちていく霧の寝息