選出作品

作品 - 20090928_126_3817p

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鉄のきりん

  草野大悟

エレベーター付きの新築のこの家で暮らすようになってからずっと
それ、は、4年前のカレンダーの「1日」だけを見ている

カレンダーは、手術前、10月になると毎年
妻がどこからか買ってきていたインドのもので
官舎の中で確実なステイタスを築いていた

12月8日に「赤丸」
12月30日{新聞取材」
12月31日「おせち受け取り」
自信に満ちた妻の書き込みがある

赤丸をつけた日に
自分が自分でなくなることなど
もちろん、妻は考えてもいなかったし
ぼくは、新年を妻と娘ふたりとで
「おせち」を食べてのんびり祝うつもりでいた

本棚の片隅で
妻が連れてきた鉄のきりんが
首をいっぱいにのばして
その日を丸飲みしようとしている