選出作品

作品 - 20090915_876_3792p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


無伴奏組曲

  浅井康浩

星空をみたらあなたのゆびさきをおもう。蜜蜂をみたらあなたのまなざしをおもう。それ
ほど、しんそこだいすきでした。だから、ここへ、いっぴきだったころの、体育ずわりの
あたしをおきざりにします。あんなにも好きなひとをみていてあきない姿勢はなかった、
そんなあたしを忘れるために聴いていたいのは、なにものにもたよれなかったよわむしが
鳴らすひとふゆだけのヴィオラです。




あたりが静かになると、わたしの寝息にあわせるようにして、しずかに楽章はながれこん
でくる。そのやわらかい響きにつつまれながら、わたしは、こまかくふるえている音の粒
子のしずけさにもたれかかるようにしてしずんでゆく。いままでに聴いたことのないパー
トへと音がさしかかるころには、わたしはねむりのふかさそのもののなかにただよってい
て、その場所からはもう、音がながれでることもあふれだすこともなくなってしまってい
る。無伴奏組曲、この曲はどうして起きることとねむることのあわいにまよってしまった
ときに、わたしのからだへとながれついてくるのだろう。



しんぞうは、夜の冷気にくるまれて芯からこごえるキャベツのひかりのようだった。とり
あえず、たどりつけるべき明日があるいじょう、かわらないままでいい自分をゆるしてく
れるせかいはきれいだと思っていた。へらへらとわらってしまうたびに、透きとおった陽
射しのような水の粒子が満ちてしまう場所が自分のなかにあって、世界の涯は水だから、
けして枯れないポピーを植えてあるいてゆく、そんな夢をみていたいと泣いていたはずの
わたしにとって、そこではすべてのものがやわらかにわすれられてしまい、わたしもいつ
しかながれる時間とともに消えてしまっている。いまのわたしには、なにものにもこたえ
をみつけることができはしないだろうから、せいいっぱい、祈るようにいきよう。ゆきつ
けるところまでゆきついて、その場所で、やわらかくすべてのものがわすれられてゆく。
てのひらをかさねあわせることがなぜいのりへとつながるのか、てのひらをつつみこむこ
とがなぜねがいへとつうじるのか、というささやきにゆさぶられながら。



とぎれめをかんじることができなくなるほど、わたしのてのひらのなかには陽射しがあふ
れてゆくので、おくってほしいといわれたものがいまだに見つかりません。ほどいて、し
ばって、そういうことをくりかえしていたから、とおい日だけが恋しくって、すきとおっ
ていくんです、ことばが。なんとなく、つきつめてゆけば、おくってほしい、とあなたが
言ってきたものはわたしがおくってやりたい、とおもったものとかさなるのよな、そんな
気も、さらさらに、しないでもありません。そういう日には、やさぐれた気分でわたす檸
檬にふりかえりもしないうさぎがかたわらにいたりします。ここから、その場所へ。やさ
しいから、って、おとづれてゆくのは真昼です。ここをすぎるものは、すこやかにそだっ
た青麦たちにまぎれてしまって。