選出作品

作品 - 20090625_207_3608p

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god is my co-pilot

  debaser

外国の人たちが電車の中で殴り合っている。去年の夏にぼくは仕事でインドに行った。合間を見つけてぼくは妻のためにサリーを買いに街に出掛けることにした。ホテルを出るとリクシャーの運転手数人から声を掛けられたが丁寧に断った。街は予想通りにぎわっていた。サリーが買える店をみつけ中に入るとたくさんの人がいた。だけど客はぼく一人であとは全員店の従業員だった。ぼくに近寄ってきた男に妻のためにサリーを買いたいと伝えるとインドの山奥でんでん虫カタツムリっていったいなんのことだと訊かれた。それは日本の国歌だと嘘をつくと、男は何も言わずに生地のサンプルをいくつか見せてくれた。ぼくは眠っていた。死にかけている猫を動物病院に置き去りにしてわけのわからない薬を貰った。それを3粒飲むと、気持ちが良くなったのでメタモルフォーゼのチケットを買ってTangerine Dreamを観に行った。彼らは静寂の中ひっそりと現れ、ダンボールで作られたステージ中央の犬小屋に閉じこもりテクノミュージックのようなものをえんえんと演奏した。時折、発狂した観客がステージに上がりセキュリティの黒人たちに羽交い絞めにされた。娘がお父さんこれはいつの時代のなんという音楽なのと訊いてきた。何か気の利いたセリフを考えているうちに演奏が終わってしまったので、たった今終わってしまった音楽さ、と答えた。ぼくは眠っていた。昨日はSofia Coppolaナイトというイベントで夜の10時から彼女の映画を続けて3本観た。2本目の途中から吹き替えと字幕が交互になって仕方なく3本目が終わる前に映画館をあとにした。辛抱強く最後まで帰らなかった友人の話によると3本目のエンドロールの途中にSofia Coppolaが真っ裸で現れ、おまたに引っ掛けた糸でリンゴを剥いて観客に振舞ったそうだ。友人はリンゴは外国人のおまたの味がしたと言っていた。ぼくは電車の中で眠っていた。ぼくの隣には妊婦が座っていて、おなかをさすっている。ぼくは夢の中でぼくもおなかさすっていいですかと彼女に尋ねると、ええいいわよと言われたのでまるで自分の子どもが彼女のおなかの中にいるようにさすった。彼女がうとうとし始めたので、電車の中で眠ってしまうと危険ですよとぼくは忠告した。彼女はああそうねありがとうとか言って、この子が気違いになるのだけはごめんだわと降りていった。目覚めると妊婦はもういなかったが吊革にぶら下がった猿がぼくを見てなにがしか軽蔑したようににやと笑った。1980年以前の記憶がなかったので母に理由を尋ねると、お父さんが知っているわよと言う、お父さんはもうとっくに死んでるじゃないかと母に愚痴ると、今度会ったときに訊いておいてあげるわよと言われた。自室で眠っていると兄が猫を拾ってきた。ぼくは猫が好きだったのでとても嬉しかった。兄はその頃、大学を中退したばかりでまるで猫のように家でごろごろしていたし母に乱暴することもあった。猫が家にやってきてしばらくして兄がいなくなった。猫はとてもやんちゃで二階のぼくの部屋の窓から外に出て屋根伝いで毎日旅した。一週間ばかし帰ってこないこともあってもう帰ってこないかもしんないって思っていると、窓をトントンと猫が叩くので中に入れてあげた、どこに行ってたんだよと言うと、ぼくが小学生の頃に養護学級の女子を階段から突き落として血だらけになったその子が倒れている踊り場で血をぺろりぺろり舐めていた、とか言った。よく外に出て行く猫だったので喧嘩も絶えなかった。いつの日からか猫は片目になってそれでもぼくの部屋の窓から外に出て行くことはやめなかった。ぼくはバンガロールに向かう飛行機の中で眠っていた。The KinksのTシャツを着ている老人がぼくに話しかけてきた。この飛行機はいったいどこに向かっているんだと言うのでThe Kinksは大好きなバンドだけどもぼくは眠っているからそういう話はあとにしてくれと言った。老人はThe Kinksが音楽をやっている連中だなんて知らなかったと言って不機嫌そうに目をつむった。電車の中では外国の人たちが殴り合っている。ガンジス川のほとりで気が付くとぼくのとなりにはインド人たちがいた。そのうちの一人がぼくに話しかけてくる。おまえはなにじんだと訊かれワカラナイと答えた。彼はははんと笑って、おれと一緒だなと言った。何の収穫もなく帰国し街をぶらぶらした。渋谷で外国映画の撮影現場に出くわした。監督らしき男が話しかけている女は有名な女優だったが名前は思い出せなかった。ベビーカーに赤ちゃんをのせる場面を何度も繰り返し撮っていた。赤ちゃんは不思議そうな顔で彼女をずっと見ている。映画の中で彼女は赤ちゃんを渋谷に置き去りにする。やがて赤ちゃんは子どものいない裕福な夫婦に拾われ不自由なく暮らすが17歳の秋に黙って家を出てあてもなく外国に行く、外国の生活にも慣れ始めた頃に彼女は街の大通りで外国映画の撮影現場に出くわして監督らしき女にあなたわたしのママに似ているのと話しかける、監督らしき女は撮影の邪魔をしないで今撮っている映画はわたしのデビュー作になる予定だからとてもナーバスなの許して頂戴と言う、彼女は通行人の役でもなんでもいいからわたしを出演させてと頼んでみると、そうねえセリフらしいセリフなんてひとつもないけど赤ちゃんの役で良ければと言う。ぼくは飛行機の中で眠っている。目が覚めると野外のコンサート会場にいた。ぼくの隣で寝そべっている少年に今から何が始まるんだと尋ねると、WoodstockでもReadingでもATPでもフジロックでもないものさと言うので、つまり今までぼくたちが聴いたことのないような音楽が鳴らされるようだねと知ったかぶりすると、おじさんいい気になるなよと言って少年はどこかに行ってしまった。ぼくは寝そべりながらえんえんと音楽を聴いた。娘が犬小屋に片目の猫がいると泣き出したのでぼくはその猫はぼくの古い知り合いだからそのままにしておいて欲しいと頼むと娘はあきれたようにせっかく終わったと思っていたのにと言った。ぼくは寝そべりながらえんえんと音楽を聴いている。外国人のおまたの味がした。機長がやってきて飛行機は予定通り墜落しますと言った、興奮した乗客の一人がわれわれの飛行機はどこに墜落するつもりなんだと尋ねると機長は今のところなにも確定していませんと答えた。外国の人たちが電車の中で殴り合っていた。二人は父子だった。ぼくたちは今も本当の映画の中にいた。