それはとてもきれいで
めちゃくちゃな
物理学の宇宙のように
すぐにわたしを虜にしたの
現実感がないわ
そうね 子供の頃に絵本で見てから
わたしの脳裏で成長しつづけたような
そんな景色よ
地獄の閻魔様がもし
いい男だったら会ってみたい
ぼんやり中空をながめていると
光や粒子みたいなものがたくさん降ってくるのまぶしいくらい狂おしさでお腹が痛くなるすべてを吐き出したくなる植物のいとなみを真似て肉を焼く時には鉄をよく熱くしてから赤黒く熱した剪定ばさみを触れた瞬間にするちいさな蒸発と炭化肉が常温に戻れば傷口にピンクの岩塩を振りかける装飾品のようにして
結晶
涙なんか鼻水以下の存在だとわたしのアレルギーは主張する梵天様が台所で増殖する研ぎ澄まされているのは包丁だけだ母なる肉体にブロンズのエロスを降臨させるロダンのダンテ冷蔵庫の血管をめぐりエレクトリックな振動音が夜を支配するすこし前
ステンレス
葡萄酒をあけたばかりで
ミルクみたいな香りがして
あ、
あのひとがそろそろやってくる
時間
わたしはお花のようにわらう
つるのように触手をのばす
炎に
熱は砂糖を焦がす
壺の底の方であまいにがい香りがして
あ、
あのひとがやってきた
魚の目みたいにちいさな穴からあなたを覗くと
ちいさなばらの花束をもっているのが見えた
ピンクとキイロとアカのチカチカした花束よ
いとしい人はたのしい人よ
いつも
ばかみたいに
やさしくて
ほら
しろいお皿の上で余熱が仕事をしてるあいだ
わたしたちはキスをして
それから
なにか実を結ぶようなことをはじめる
刃物とか炎とか臓物とかとろとろに凍ったウォッカだとか
泥とかたまごとかポッサムキムチ
干した果物や肉や魚や海藻なんかが
無秩序にあるべき場所に収まっている
そうして
自分という他者が何者でもないわたしを
内蔵と皮膚の外側を 関係づける場所
位相
あのひとはなんでも
のみこんでくれる
ばかみたいに
かわいいチカチカの花束に似てる
「恣意的に存在する理由なんて誰も立証できないはずだとそう思うわ」
ってわたしが言ったらあのひとは
「そうだね」
って言ってから全然違う話を始めるチカチカの花束みたいに
「たとえばきみが好きなことを話してごらん」
とか…そんなくだらないことを言うわ
わたしは自分がバラバラなのをわかってる
刃物とか炎とか臓物とかとろとろに凍ったウォッカだとか泥とかたまごとかポッサムキムチ
干した果物や肉や魚や海藻なんかが無秩序にあるべき場所に収まっているのに似てる
それらはとてもきれいでめちゃくちゃな物理学の宇宙のように
わたしを虜にしたままわたしの脳裏で成長しつづける
解決という決着が訪れるまえに擦り切れてゆくためには時間を解散させることが必要なのだ
選出作品
作品 - 20090430_239_3489p
- [佳] 位相 - はなび (2009-04)
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位相
はなび