歌舞伎町一番街
と書かれた赤い電飾アーチを眺めながら小さな路地を入ると
下水と古い油と安い香水の交じった匂いがほのかに鼻腔に伝わる
暫く歩き
雑踏ビルの隙間に入ると突き当たりにはビルの地下トイレを案内する矢印のペンキがコンクリートの壁に書かれている
その方向に疑いもなく従い
ひんやりとした階段の音を反響させながらトイレのドアにたどり着き
男女兼用のマークをチラ見して中に入った
女が唇から血を流し
破れた服を身に付けて
睨みつけるようにして正面で立っている
すぐ横には股間を血塗れにしながら半ケツ状態でうずくまり
苦悶の表情で唇を噛み締めている中年がヒーヒーと息を盛らしている
暫くそれを眺めて俺は何も言わず
鏡が付いている洗面所に向かい
スーツのポケットから髭剃りとワックスを取り出して
寝起きの身支度をし始めた
すると女が隣の洗面の蛇口を捻り
口を濯い
おもいっきり赤い水を吐き出した
ペッ!
そして顔を洗うと中々の美人だった
固形石鹸を直接顎に擦りながら横をチラ見していると女はため息を一つ吐き
最初の一言を呟いた
ねぇ、
俺は髭を剃りながら
何か?
と訪ねる
あなたのワイシャツ売ってよ
そう言い女はうずくまっている男の横に落ちていた茶色のショルダーバッグからワニ革の財布を取り出し
束になった万札から三枚取り出して俺にヒラヒラと見せびらかした
早朝ソープ代にはなるわよ
女は俺の意見を聞く間もなく破れた服を男の顔の上に落とし
白いブラジャー姿で催促している
俺は顔を洗い大の個室に入り
トイレットペーパーで顔を拭き
そのままスーツを脱ぎワイシャツを脱いで
肌着のままスーツを着直して女に渡した
何?この香水?嗅いだことあるわ、サムライ?
当たり
女は少し大きめなワイシャツを上手く着こなし
コーチのバックから口紅を取出し
素早く塗り直し颯爽と何事もないような足取りで出ていった
俺は携帯を取り出してアンテナを確認した
一本立っていた
間に合いそうだな
俺はいつもお世話になっている新宿交番に電話して状況を教えてから下界に戻った
外はもうサラリーマンが足早に駅からこちらに向けて行進している
俺は自分の股間を見て
もう一度出てきた路地裏を見て
その場を去った
スカウトしときゃ良かったかな?
風呂の中で潜望鏡を始めた女を見ながら俺は少し後悔し
湯船に顔を沈ませた
選出作品
作品 - 20081227_314_3227p
- [佳] gloom2 - 5or6 (2008-12)
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gloom2
5or6