選出作品

作品 - 20081006_841_3066p

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秋の散歩

  鈴屋

ネコジャラシが風を批判している

 *

こいびとよ
秋はあなたのひかがみのさびしみ 
日の当たる縁側をあなたの足うらはひそかにかよい
綿ぼこりはまろび、ドアのむこうは青空 
崖上からふみだす歩のかるさ
秋は散歩のたのしみ 
通りすがりの一つ家の孤独な火災をやりすごせば
爪ではがした昼の月と恋の瘡が煙にさらわれ
失うことのさわやかさ、見返り美人をこころみる 
秋は花と血のたのしみ 
すすきをなぎ曼珠沙華をふみしだき 
日がな一日肉を斬りあう無頼が二人 
一人がかなしく死に
一人がかなしく生きのび
二つながら 
あなたの恋がまたはじまる、こいびとよ
踏切の警報機が鳴り
黒と黄の縞々模様の棒が横たわるむこうで
ガス器具販売店の幟旗がはためき 
郵便配達の赤いバイクがジグザグに遠ざかり
老婆が門扉のあたりを掃くそれらのながながしい時、時
鉄の車輪が瞬き、去り、棒があがり
人けのない道に、黄金の
金木犀一樹
二秒、一秒
あなたは世間から醒める
こいびとよ
秋は角を曲がる、秋は全体的に角を曲がる、秋は軋む、秋は軋みながら全体的
に角を曲がる、秋は傷つける、秋は軋みながら全体的に傷つけ角を曲がる、秋
は現世を運ぶ、秋は軋みながら全体的に傷つけ、現世を運びながら全体的に角
を曲がる、こいびとよ 
縁側の陽だまりはうつり 
帰宅したあなたの足うらはひそかにかよい 
綿ぼこりはまろび 
あなたはふるび、ふるび色づくあなたの 
秋はさびしみひかがみの秋
こいびとよ

 *

雲とコスモスと
「マー君」という叔母の犬