夏の嵐、というにはまだ早いけれども、
今日ここに、また嵐の予感がある。
ビルの窓から見える西の空、
雲が黒く、渦巻いてきている。
黒い雲の間隙をぬって、
時おり明るみがのぞく。
蛍光灯の白さがいやらしいオフィスのデスクで、
ゆっくりとキーボードを叩きながら、
空が、移り変わる様子を、盗み見ている。
墨で硯を摺って、
薄墨色の雲を、もっと黒く、
ぬらぬらと、黒くして。
そこから、
雷(いかづち)が届くのを、待っている。
鬼が慰みに刃を振り下ろすのを、
剣を突きつけてくるのを。
鋭利な、鏃のような雨が放たれる。
攻められるその場所で逃げ惑う人々を、
眺めている。
空気の濁った室内で、
ひぃ、ふぅ、ひぃと息を吐きながら、
外が、掻き乱されるのを、見ている。
雨水が、溜まってゆく。
この街が水槽になる。
街路樹が水草になり、揺れる。
建物の隙間から水が滲みこみ、
わたしもいつしか水に取り囲まれている。
やがて水槽に蓋がかぶされて、
世界が真っ暗になる。
もう、逃げられないね。
もう、逃げられないよ。
けれども、
わたしは、変わらずPCのディスプレイに向かう。
勤務時間が終わるまで、
ここに、このまま座っている。
それが、仕事なのだから。
選出作品
作品 - 20080610_717_2825p
- [佳] よそ見 - ともの (2008-06)
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よそ見
ともの