沼地に足をとられるように
気分が沈むときのあなたの眼に
昔のままのぼくの姿が
浮いているのではないか
末っ子だったぼくは
いじめることができる
妹を得たおもいで
姪のあなたを泣かしたり怒らしたりした
三つ編みをした幼女のあなたと野原で遊ぶ
小学生のぼくは草の茂る窪地に隠れる
突然ひとりにされてあなたは
泣きながらぼくの影を探す
あなたは小さな手で泥団子を
投げつけてきた
握り固めた怒りをぼくは受けとめたが
会うことが少なくなって溶けてしまった
ぼくは忘れそうになった宿題を届けに
大人になった
あなたの元へ行く
子どもの頃のことを詫びに
「意地悪をしてごめんね」
「そんなことないわよ」
その言葉であなたの記憶の沼に棲む
ぼくの面影が消えるわけではない
沼地に入れた足を引き抜くと
残ってしまう靴のように
あなたは三つ編みの幼女のままで
ぼくの記憶の沼に棲む
選出作品
作品 - 20080301_618_2637p
- [佳] 沼地 - 殿岡秀秋 (2008-03)
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沼地
殿岡秀秋