選出作品

作品 - 20080225_523_2627p

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死者の記憶=世界

  いかいか

死者の記憶のほの暗い洞窟、
松明をともして、
夜半に出かける、
首九つの村の中で、
女達が生み出すのは、
まるで顔のない人間たち、
引き剥がされた、
引き剥がされた、
と、
私の友人は悲しく言うが、
それはもうだいぶ前の話、

顔のない誰かの音楽を
僕らはやっている、
彼は百年前に死んだというが、
まるで酸素の様に、
その記憶だけが
世界に満たされている、
神童と呼ばれた頃の顔は、
すでに引き剥がされて、
女たちは
村九つで、
首をひとつ植え替える、

借り入れるの季節、
女たち、
皆、農夫になって、
歩き出し、
田畑を切り開く、
そして、
首十の村で、
八つの顔を挿げ替える、

贈与、
された、
死者の洞窟の奥で、
私が見た記憶の中で、
もっとも鮮明だったのは、
あのおかしな文化人類学者の詩、
彼の顔は引きがされてはいないが、
ひどくゆがんでいる、
闘牛のせいだろう、

首ひとつ、
田畑が三つ、
家四つ、
植え替えの季節、
男たちは、
裸のまま、
サンダルを片方、
そう、昔、あの男がやったように、
岩の上に置いて、

顔なしの祝祭、
皆して、
女たちを刈り取る、
男たちは植え替えられて、
静かに寝静まる、
納屋の奥で、
馬が見届ける、
ぼんやりとした
便器の上で、
蛙が雨を待っている、
鉄の老人は、
胸を締め付けられて、
今にも飛び出しそうだ、
そう森の奥から、
はじめて降る雨が、
酸素をかき消す、
紛れ込んだ野鼠の尻尾が発火し、
水中で炎がともる、
そしてここで、
私は始めてどもる、

今日は
重力が晴れている、
まるで、
追い落とされた
最後の生き物たちが、
簡単な会話をすませて、
家を焼くように、
そう、今日は祝祭、
村一つ
首二つ、

生きている人間はもういない、
皆、死んでしまっているのだから、
あの懐かしい腐臭がする、
そう、まだ私たちが、
野兎を追いかけて、
悶絶しながら、
射た弓が
返し矢となって、
胸をいるように、

腐臭は記憶なのだから、
それをすって、
記憶になるまで、
私たちは何も知らない、

今日は雨が降っている、
世界と切り離された批評家の運命を、
笑うには最適だ
毒を飲め、

首七つ、
村一つ、
刈り取られる、
植え替えられる、
鉢の中で、
にこやかに笑っているのは、
私の知っている人だったり、
私だったり、