選出作品

作品 - 20080209_202_2601p

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問いかけの道

  殿岡秀秋

たとえ問いかけに
応えなくても
ぼくとあなたの間には
気と気が流れて
道が生まれる

炎天下の舗装路の蜃気楼が漂う道
森の奥のシダが茂る湿った道
沈黙の石に蝉がなく墓場の道
ナメクジが這った跡がひかる窓の桟の通り道

テレビジョンの中で
役者がしゃべった言葉を聞き取れないで
一緒に観ている家族に聞いても
だれも応えない
ぼくは木霊のように帰ってくる田舎道を期待したのに
突然袋地に迷いこんだ
その壁の向こうには
息を潜める人の気配

すると空気を裂いて真空の道が生まれる
沈黙の言葉は満ちているが
意味を形成しない
そこにぼくの気とあなたの気だけが充満している

聞かれてもわからないから
応えようがなくて
それを説明する気にもなれない
あいまいな雰囲気につつまれて
家族はある

気づけば袋地と見えたところに細い道がある

真昼だれもいない都市の小道
軒下に盆栽の鉢が並ぶ道
格子戸に朝顔のつるが絡む道
すだれの奥から三味線が響く道

通りぬけて広い道に出る
氷菓子屋の前に立って
ぼくを手招きする
あなたの微笑み