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岸辺にいると不安なので
内陸へ向かう
わたしが愛するあなた あなたを捨てにいく あなたの
首はなだらかな丘の頂にそっとおく あなたはけっして
ふり向かない木になる あなたの腕と脚は束ねて括って
寂しい駅のベンチに忘れてくる 学校帰りの少年がひと
り美しい眉をひそめる あなたのコスモス色の10の爪は
ティシューに包んでポケットにおさめる あとではじい
て遊ぶ あなたの眸は秋の曇り空に投げ入れる ときど
き瞼をあけては道行く人の背後を見詰める あなたのト
ルソーは湖に立たせる 千年昔の悲しい恋の伝説になる
あなたの唇はポスターにして街中の壁という壁に貼る
万人があなたの唇を買い求める あなたの血液のことご
とくはわたしが吸いつづける わたしの永い逃避行の糧
とする あなたの女性器は荒れ野の枯れ木に吊るし北風
に晒す わたしはその荒れ野で泣きながら夕日を見る
わたしが愛するあなた あなたを捨てにいく あなたの
すべてを捨ててしまえばわたしは旅を終え紳士服など買
いにいく
ドアミラーの中の青空
はるかな送電塔の数列
選出作品
作品 - 20080206_169_2594p
- [優] 恋歌連祷 10 - 鈴屋 (2008-02)
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恋歌連祷 10
鈴屋