選出作品

作品 - 20071115_486_2448p

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[entenjizai]

  香瀬


[entenjizai]





   撤回に翅を縫う。眼の前にはいくつもの完全な球体、影が滑り行く風景、浮かぶ、頭
   の上に浮かんでいる太平洋の表面張力、波打つ完全な球体に影はあるのだろうか、ひ
   とつひとつ滑る、丸い影は何もかも染める、黒く、注がれている無数の完全な球体は
   頭の上で表面張力に怯える、無数の浮かぶ太平洋を歩いていけたらいい、そろり、と。

   割らずに残される、頭の上、残された完全な球体は肺胞に拒まれる、阻むくちびるは
   開き、東京湾を嚥下しようとする、咽喉をくだっていく無数の東京湾、さはれ、いく
   つもの完全な球体状の影に、内臓は血みどろ、染められていく、黒い東京湾は汗とな
   る、いたるところから翅が出てくる、握られる、抜け殻になってしまう、はらり、と。

   脱皮、せいこうした扇風機に消される翅音、コンセントを捻じ込むとき、人差し指と
   中指のあいだに生じる愛を発見する、荒川の河川敷には、敷き詰められた影が、頭の
   上に浮かんでいる無数の荒川を凝視する、あ、おひさしぶりです、「あ、おひさしぶ
   りです」と言われた精子を内包する完全な球体、黒くて透明に破裂する、ぱちん、と。

   見える、誰かの唾液でも乾いた眼球を加速させる血液、すべて完全な球体が通過する
   、皮膚に触れる回転運動、雨が降るたびに身体が蒸発していく、空隙になった翅に透
   明な活字が浸透してしまう、完全な球体におかされている、無数の見えない効果とし
   て立たされては、次の海が縫い返される、完全な球体の転がりはやまず、ころり、と。






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