選出作品

作品 - 20071027_984_2407p

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冷やし中華終わりました。

  宮下倉庫



駅へとつづく郊外の、幾何学状にひび割れた道を歩くと、送りだす足と、送り
だされる足が、誤りのない証明のように、ただ駅へと向かっているのが分かる。
あの角を折れれば、梅雨の明けきらない頃から 冷やし中華はじめました と
幟を掲げていた中華料理屋がある。道の両脇に立ち並ぶ住宅からは洗剤の、ま
たは木を切る匂いが、する。そしてぼくはもう汗をかいている。後ろでクラク
ションが鳴り、軽自動車が、減速しながら、ぼくを追い越してゆき、角を折れ
る。振り返ると、いま来た道はやはり幾何学状に、ひび割れ、恐らく道路工事
の男たちは、電話線や下水管といった埋没施設にはぬかりなく注意を払うだろ
うし、道の舗装方法について、このあたりのごとき計画外の郊外では、簡便で
安価、かつ機能性に富むこと以外に、優先されるべきことはないだろう。道は
中心に向かって緩やかに隆起している。ぼくは軽自動車に少し遅れて角を折れ
る。陽射しはまだ夏の角度へと達することができるようだが、幟は既に取り払
われている。この無言からどのような解を導きだせるか、と考えたことは一度
もない。中華料理屋の引き戸のガラス越しに、泥のついた安全靴が見える。彼
らが何を食べているのかは、見えない。