駅前に黄色のキャロルを路上駐車するとクマは
ポンっとドアを叩きつけ 身軽に外へ出た
わたしは険しくなってる顔を 上げないよう
キュロットの裾を握りしめた
1時間もよ!
「待った?」
「ううん」
「ヨシっ 乗った!」
そう言ってクマは わたしの背を乱暴に押すと
キャロルの助手席に押し込んだ
クマはスーツのポケットから指輪を取り出して
さっきから 弄んでいる
彼が 夜の海に向かっているのがわかった
高速に乗るとすぐに
窓を開け放ち彼はその指輪をポイっと投げた
たぶん
カルティエかブルガリかハリー・ウィンストンの
ダイヤの指輪だ
窓をギュイっと閉めると彼は
わたしを見て
決心が鈍ったと
そうつぶやいた
「なんのこと?」
「場末のホステスみたいだぜ」
わたしの顔をじっと見るなり
彼はそう言った
「お気の毒サマ!」
そう言うと ふたりはグッと押し黙って
車の中の空気も うんっと重くなった
「もうすぐね」
「え?」
そう言って彼が振り返ると
目の前にフワっと海が広がった
キャロルがスリップして止まると
夜の海が
とても静かで
綺麗だった
わたしたち・・
ここから始められる?
ハンドルを握ったままの彼はとても静かで
さっきまでの悪態が信じられないほど
きれいな横顔をしていた
そしてわたしの肩をグッと抱き寄せると
とても優しいキスをくれた
「指輪 もったいなかったね」
唇を外してそう言うと
彼はその言葉を打ち消すように・・
もっと強いキスを
わたしにくれた
選出作品
作品 - 20071024_904_2406p
- [佳] 黄色いキャロルのクマ - ミドリ (2007-10)
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黄色いキャロルのクマ
ミドリ