見はるかす奥まりに、灰色の吹きだまりが、零れ散る身で曲線を
引き入れ、こちら側の、青みの溶けた硫酸の雲まで、滴り落ちない
からこそ生糸の、弧を招き入れる、その街の対角線に沿い、雪のよ
うに猫が降り頻り、そうして二つに分離された街の境界を、一匹の
猫が、精確に歩いていく、その足取りを、静止して、遠く眺める私
は、雪原に向こうへ、点々と形成されゆく瞬間々々を、猫がかたち
づくる時間の連なりとして、やはり、静止しながら、じっと見てい
た、
足跡よ、猫の汗に湿り、その体躯の重さ分、雪原の体積を空白に
して、あの猫の手足が、次々と新しい複製を作る、あなた方は、境
界となって、一つのものを、二つにして、あなた方の一列を、作っ
ていった猫の姿を、どんな思いで見ているのですか、
上を見ると、雲から次々産み落とされる猫は、中空で、爪を立て
るように身を屈め、蝦のように反り返る、雪原に到達するのを待た
ずに、溶けてしまうから、あの猫達の空は、残像で埋め尽くされて
いて、雪原には境界が、ずっと真直ぐ引かれ続け、
選出作品
作品 - 20070830_427_2301p
- [佳] 境界 - 田崎 (2007-08)
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境界
田崎