紅藤色(ライラック)のぼんぼりに灯りをともしたその立ちすがた
花かんざしに 銀のかんざし 珊瑚珠(だま)
人形液でしあげられた白い顔
うしろすがたもあでやかに、だらりの帯はおしりをかくし
きみとぼくと舞妓さんの日々がはじまった
舞妓さんはくまさんのリュックを背負って(きみは舞妓さんのこどもっぽさをバカにする)
これでいいの。鏡にふりむき訊いてから バレエのお稽古へ、伽羅(きゃら)の薫る頬をして
ヨーイ、ヤサー。とアラベスク
きみとぼくは舞妓さんの舞台をみにいった
ヨーイ、ヤサー。で ゆきうさぎたちはいっせいに跳ね
桃色や空色の花がさきそろう
どれがぼくたちの花なのか ぼくにはわからなかったが
舞妓さんの誕生日にぼくが買ったつげの櫛(千鳥の抜き彫りされた櫛 それはきみのものになった)
ちいさな千鳥はながれる髪の上 すべるようにとんでいき
たおやかに整えられていくぼくたちの日々
きみが電話するといつでもすぐ
ドールハウスから 紅藤色(ライラック)の振袖をはためかせ 舞妓さんはやってきた
セーラームーンのような恋にあこがれている舞妓さん
薔薇色に薫る頬をして 短いスカートひらひら 薔薇色のくらげのように
きみとぼくの先を小走りにかけていく、
セーラームーンになったつもりで 喫茶ソワレのゼリーポンチにむかって
暴飲暴食。
とうとつに舞妓さんがいった
あきれたおかあさんのようにきみが説明する、
まいちゃん今日は、かき氷ふたつとジュースさんぼん。
舞妓さんのぽっくりは こみあげるしあわせの笑いをふくんで艶やかに沈黙する
空には色とりどりの駄菓子がうかんでいた
雑貨屋のうさぎがだっこをせがむ
しょうがないからだっこして きみはあかるいおどろきの声(うさぎの下半身には砂鉄がつまっていた)
新生児の重さ
きみはよこだきにして
きみとぼくの眼にみえはじめる そのうすい前髪のあたりをそっとなでる
それは舞妓さんがひとりで産んだこどもだった
まいちゃんには友達いない。
きみがいじわるいったことがある
おるもん!
花かんざしに 銀のかんざし はげしくゆれて
舞妓さんの泣きだしそうな声(その声はぼくの口からでたようでもあった)
ごめん。ごめん。
そのときのきみこころは すなおな珊瑚珠(だま)
それからぼくたちは松彌(まつや)で 金魚と風鈴と花火のお菓子 三にんぶん買ってかえった
………………………………
蝶たちがみずからのすがたをあちらこちら刺繍していたあの街で
きみとぼくと舞妓さんの花が咲いていた
選出作品
作品 - 20070808_984_2262p
- [佳] 舞妓さん - 兎太郎 (2007-08)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
舞妓さん
兎太郎