選出作品

作品 - 20070714_161_2207p

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僕らは樽を抱いて眠れ

  宮下倉庫



ギネス
そう告げると
瓶のまま出てくる
樽じゃなくてよかった
そう思う

左手をのばすと
ロイドの角がカウンターに触れ
カツン と
小さな音をたてる
半袖が
香る季節を僕は
嫌いじゃない

そういえば
部屋の蛍光灯が一本
切れかかっていた
白熱灯はもとより
蛍光灯だって熱くなる
唐突に思い出すのは
熱っ
そう呟いて
手を引っこめた
きみの細い指先の
やけど

黒い
ロケットがあったら
格好いいと思うね
ギネスの瓶みたいな?
そう 今にも
飛び立ちそうなくらい
冷えてる感じがさ
僕は人差し指の先を
淡く結露しはじめた瓶に
おしつける
蛍光灯くらい自分で
換えるべきだったのだろう

ね マスター
ギネスの樽って
どこに行けば買えるかな
樽?
うーん
本場に行けば
買えるかもよ
成田から
ロンドンまで直通で
約13時間
その間ずっと
酔ったままでいられるなら

相応の 理由がある
ロケットが黒くないのも
ギネスが瓶で出てくるのも
半袖一枚じゃ
表はまだうす寒いのも
13時間もしたら酔いは醒めて
僕は背広を着ているだろう
ロイドの角を
カウンターにぶつけるのは
次の次の週末くらいに
なると思う