#砂浜、足跡を消し去って、
砂浜を歩いている。私が自分の名を砂浜に刻んでいる。そして、波が、文字をさらっていく。そして、また書く。また、さらわれる。カモメが一匹、私に向かって、「砂浜に刻んだその名を消せ」と言う。
#放火魔の右目は青い、
一人の放火魔が今まさに処刑されようとしている。多くの民衆は、彼の姿よりも、彼の頭上にあるギロチンを凝視して、固唾を呑んでいる。放火魔の右目―青く、海を連想させる―から波が起こり。民衆を飲み込む。一匹のネズミが彼の右目に噛み付く。黒服の処刑人達はざわめき。彼の背中に一つの烙印をおす。彼は燃え続ける。彼は永遠に燃え落ちない。そして、誰も彼に触れることができない。青い右目、ネズミの口で青く輝く。そして、ネズミの舌は青く苦い。
#展覧会で喪服の人々は、
絵の展覧会で喪服の人々は、一人の画家の肖像画の前で泣き叫び。別れを惜しんでいる。肖像画の瞳は遠くを見つめ、喪服の人々の事すら見ていない。彼の座る椅子の下でネズミは、ネズミ捕りにかかりもがいている。其の光景をキャンバスに描いていく画家が一人。彼のキャンバスは未だに白紙のままで何も描かれていない。
#今日、夜の農場で、娘と父は
若い娘が一人、怒り狂いながら泣き叫んでいる。そして、彼女は農場の空き地を指差して。「今日、父があそこから這い出て、私を犯しにやってくるわ!」、と、罵りまじりに言って、また泣き叫ぶ。そして、父は、夜、一人、地面から這い出て、狂った娘を抱く。壁にかかった一枚の絵の中で子供たちが笑っている。
#君の見た夢の中、だが、
暗闇の中で犬が椅子を押している。外は雷が鳴り、それ以外は何も音を立てない深夜。犬、それでも尚、椅子を押し続け、部屋の中をぐるぐる回っている。子供たち、扉を開けて、犬を蹴飛ばして、椅子を粉々に打ち砕く。犬が痛みを叫んでも彼らはやめない。そして、大人たちが、犬を解放し、椅子を新しく与える。犬、また、椅子を押し、部屋の中をぐるぐる回る。そしてまた、子供達にぶたれ、椅子は打ち砕かれ、大人たちがすべてを元に戻す。犬、今日もまた、同じように。
#カモメの後ろで、人々は、
灯台守の座る椅子が盗まれ。打ち砕かれて捨てられているのが見つかる。多くの村人が疑われる。青い舌のネズミ。隅に居場所をみつけ居座る。喪服の人々が、ギロチンを囲むが、殺されるべき人は未だ着ていない。誰も来ない事を問題とする判事、怒り狂って、盗まれた容疑で灯台守がギロチンに。子供達、それを見て喜ぶ。青い舌のネズミの舌はまだ苦い。そして、カモメが一匹、灯台守の頭上を越える。
選出作品
作品 - 20070629_538_2160p
- [優] Station - いかいか (2007-06)
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Station
いかいか