少女マンガが、どっさりおさまった本棚を指差して
「あれよ」
と言った。舌はひりひりしている。
「あれよ」
昔から、ゆううつだった。おねえちゃんが死んでしまってからも
ずーっと、ゆううつだった。
そんなことを空想していると、
アパートはぐらぐらと崩れ落ちそうになっている。
やがて、少女マンガを両脇に抱えたおねえちゃんが
すっかり生き返っている、
「あんた、まだ生きてたのね、ぐふふ」
ぐふふってなによ。
でも、ここ、ぐらぐら揺れているんだけど。
そんなふうにして、近所の墓地に久しぶりに行った。
土をほじくっている管理のおっちゃんが
「いやあ、お揃いですか」だって。
おっちゃんにちゃんと愛想して
わたしたちは、墓地を後にした。
「おっちゃん、あんたに気持ちがあるみたいよ。」
喫茶店に行って、湯気の出るコーヒーを注文した。
気持ちの悪いウェイトレスが膝を抱えている。
だけど、実は、あの子もとっくのとっくに死んでるのよ、
とっくのとっくっていつなのよ、
コーヒーがこぼれて染みになった、この服、台無しじゃん
アパートに戻ると
アパートはこっぱみじんに崩れ落ちていた、
スーツ姿の男性が、神妙な顔をして土をほじくっている。
「いやあ、どこもかしこも、こっぱみじんで、機材不足なんですよ」
そんな、世の中だそうで。
そんな、世の中に みんな生きてるんだそうで。
「あれよ」
「あれよって、なによ」
「あれ、あれ」
あの頃は、いつも、こんなふうだった。
久しぶりにおねえちゃんのマンコを触った。
それは、とっても冷たくて
それは、とってもゆううつな感じだった
おねえちゃん、やっぱり、死んじゃうのね
馬鹿ねえ、ぐふふ
「あれよ」
「あれ、あれ」
「あれってなによ」
「あれだって」
おねえちゃんは、それを
ゆっくりと指差して
振り返った、
舌は かわいている、あの頃とおんなじだ。
選出作品
作品 - 20070411_638_1997p
- [優] こっぱみじんこ パート2 - 一条 (2007-04)
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こっぱみじんこ パート2
一条