『動物屋』
動物屋へいった
小さいながらも庭を持ったからには
その庭に生き物を飼いたいと
妻がせがんだのだ
手間がかかるじゃないか
世話ならあたしが
と ひかない
ならば 見るだけ
と 坂を下ったのだが
庭とは云わず座敷で飼いたい
人並みに服なんかも揃えてやりたい
と きたるべき未来について 妻は 夢想しだした
和むわ 和むわ 溢れる妄想の庭に
陶酔の夫婦が いるらしく
ほら 和むでしょう 軟らかく頬をゆがめて
団欒を繋ごうとする つがいがいい 仔ができて
庭を駆けて回る姿が
ありありと脳裏に 開かれているらしく そうよ名前よ
考えていてくださいな うつくしい響きを
次々と空に並べはじめ 考えてくれていますか
どれにしますか こんなんでいいんですか
優しい響きがいいでしょう こんなんではどうですか
ねえぇ と 踞りはじめた私の背に
沢山の名を刻みつけてくる
動物屋に 入れば
旺盛ですか 多産ですか
適応性はどうですか
何と何がかかっていますか
お乳などはどうなのですか と
主人を 追い回してる 私の姿が映り込む程
大きな瞳の黒い仔が じっと こちらを 伺っている
私はつとめて優しく ほら視て御覧
従順そうだよ 元気そうだよ きっと和むよ ほら・・
いや! そうじゃない これはちがう あれはちがう
どこにそれはあるのでしょう? と主人に詰め寄っている
なあ 聴いてくれよ おまえ
小さいながらも
庭を持ってしまったからには
その庭に 木を植えたいよ 手間はかかるが
世話なら私が きっと和むよ 溢れる妄想の小さな庭に
一本、木が生えて来て 適応性はどうだろう
たくさん葉をつけるだろうか 虫など 湧かさないだろうね
そうだ 花もいい
南国の花だよ 咲き乱れる光景がありありと
脳裏に拡がって来て 和むよ 和む・・・
杭を打って 仕切ろうよ
繁殖だよ 旺盛だよ
さあ おまえ 植物屋に いますぐいこうよ
と 云ったが 聴かない
こんなんじゃない こんなんじゃない
あたし達の仔は こんなんじゃない
それはどこにあるんでしょうね と
かたっぱしから物色してる
私はつとめて優しく ほら視て御覧
四つ足だよ 毛だらけだよ 牙だって
ちゃんと生えてるよ
来るはずもない未来について
妄想を止めぬ妻の肩が
度を越して震えだした
ぞろぞろと頬を濡らしてしまうと
つられて 私もほろりと零した
手を取って崩れてしまえ
手を取って崩れてしまえ
そうすればひとまづ治まるじゃないか
と おもっていると
いやちがう いやちがう
あたしの仔は こんなんじゃない
取り合った手を 振払い
和むわ きっと 和むわ
かたっぱしから物色を また
一から はじめた
選出作品
作品 - 20070409_547_1984p
- [優] 動物屋 - 高岡 力 (2007-04)
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動物屋
高岡 力