これがインド洋ですよ そこに座っていた老人が
指をさして言った
さすが広いですねぇ
人っ子一人いやしない
ユリはジーンズの裾を捲り上げて
サンダルのまま 海の中へ入って行った
バラナシ空港に ユリが着いたのは
午後の2時半だった
空港から外へ出ると
ムッと吹きつけてくる風が
体を包んだ
200ミリのズームをいっぱいにして
ファインダーを覗いていると
空港からホテルへ向かう人通りの中に
一匹の仔犬がいた
彼は一軒のレストランの前で躊躇し
立ち止まって座り込んだ
強い日差しで
額の辺りから
汗がこぼれる
私は”ボーイハント”のつもりで
仔犬に声をかけた
ご飯でも一緒にどうですか?
仔犬は私を見上げると
おねーちゃんは中国人かい?って訊いてきた
日本人だよ
見てわかんない?
インドの暦で
3月と8月の11日は
1年のうちでもっとも重要な日なんだ
つまり今日
6月21日は この大切な日にあたる
腹はへってないからさ
一緒にガンガーへ行くかい?
ガンガーってなによ?
仔犬は私の手をギュイと掴んで
ズンズン歩き出した
有無を言わさない感じだった
街を突き抜けると
ふいに巨大な階段が立ち現れ
とても大きな
建物とつながっていた
何よ?此処
やーよ って私言うと
仔犬は私をにらみつけ
お前さっき日本人だって言ったよな
うん
だったらこいよ
ギューっと 引っ張られた私は
建物の中へ引きずり込まれた
なんだ此処 ラブホテルじゃないの?って仔犬に訊ねると
違うね
ファッションホテルって言うんだ
私たちはレセプションで手続きを済ませると
306号室に入った
ピンクの回転ベットと鏡張りの部屋
むかし大阪のミナミでタカシと行ったラブホテルとそっくりだ
ちゃっちゃと服脱げよと仔犬が行った
あなたから先に脱いでよ
俺はもう裸だよバーロ
ポコちんだってこのとーりさ
確かに・・・
私はもうブラを外すしかなかった
仔犬は器用に私の前ホックを左手で外すと
唇を押し付けてきた
やだっ
私ったら もう感じちゃってる!
仔犬はピチャピチャと下腹部へ舌を滑らせる
ホテルの窓の下の
路地を走り抜ける 人と牛と車のリキシャが
行きかう音に私の胸と呼吸は荒くなった
仔犬は私にヨガみたいな格好をさせたり
ハーレーダヴィットソンに乗るような格好までさせた
そしてマンゴージュースのような
ねっとりとしたキスまでくれた
そしてその夜
私たちはガンガーを抜け出した
青い火葬場の白煙を上げる
井桁を組んだ薪のまわりに
十数人ほどの白い服を着た人たちが
丸い円をつくって
燃えついていく遺体をじっと眺めてる
私の手を強くグッと握りしめて仔犬言った
此処がガンガーだよ
胸の内っかわを膨らませる
最高の喜びの場所だよと
仔犬は焼かれていく遺体を指差して言った
私はフレアスカートの裾を捲り上げ
ブラウスのボタンを外し
腰を屈めてパンティーを脱ぎ
腕をグッと掴んだ彼が耳元で囁くのよ私に
最高に 君は綺麗だよって
選出作品
作品 - 20070403_406_1972p
- [優] ガンガーを抜ける - ミドリ (2007-04)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
ガンガーを抜ける
ミドリ