とうとう雪の降らない冬だった
冬着では汗ばむほどの二月二十六日
ぼくは古びたバイクを車検場の列に並べていた
クーデターはむろん中止。
向かいの自衛隊駐屯地から
ひとしきりあがる演習の銃声
思いのほかそれは柔らかい音だった
兵士の腕の中にある小さな薬室で
わずかな量の火薬が燃焼する音は
のどかにさえ聞こえた
だがこの銃声に耳をふさぎたくなる人が
この世界には大勢いるのだ
おびえたまなざしをぼくらに向ける人たちが
いたるところベランダにはふとんが干され
早すぎる春の陽ざしに膨らんでいる
清潔なもの 黄ばんだもの
花模様 パッチワーク チェック
愛をはぐくんだもの
孤独なもの
食べきれぬほどの夢を食べて
まだそれらはどこかで願っている
ああ、この国のクーデターも戦争の始まりも
遠い遠い冬の幻想であったなら!
選出作品
作品 - 20070307_729_1909p
- [佳] ふとん - まーろっく (2007-03)
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ふとん
まーろっく