半乾きの毛先が
とがって
頬にぱらぱらとあたる
静脈が透きとおって
そこだけ
あかくなる
遠い夕立の深夜
あなたのお母さんが運ばれた
病院の丘から
見渡せるシーツの上で囁いた
伏し目がちな
ぼくの腕
泣いているように笑うあなた深くに
肌を埋めこんでいった
ふ、と
夕暮れの色素に
染まって
浴室の壁が冷えて
ぼくから削ぎおとしてしまった
つやつやの毛が
ぼやけたタイルの
白い目地にはりついていた
夜の蒸気が
排水口にためこまれてある
明け方までにはそっと
蒸発してしまおう
病院の窓から虚ろな重いものが
じいっと、見つめているのを知ってる
いまなら飛べるから
小さな震えに訪れる
腕の中で息づいたぼくの少年性を
あなたのドライヤーは
つるりとはぎとってしまった
石鹸の泡で隠したかさぶたの
血漿のしたたかさを
柔らかな夜の舌が
おさえつけているうちに
しめった肌の表面に
閉じ込められたぼくたちの
祈りに似た震えが
乾いた喉を潤そうと
背中から滲みだしてしまい
肌と肌の隙間で
ばらばらの骨になる
ほたるの触角のような
時折ひかりだす鎖骨の
半透明を
シーツの上でぶつけあう
カーテンレールのきしまない夜
あ 流れ星、と
暗闇とビロードの後ろで
発光しだしたぼくたちの記憶は
窓ばかりを気にして
夜の
舌に絡めとられる
あの丘から見渡せてしまう
太陽がのぼる
までの
選出作品
作品 - 20070205_035_1827p
- [佳] 夜の舌 - ジンジャー (2007-02)
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ジンジャー