選出作品

作品 - 20061116_550_1662p

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土のみかん

  ふう

ぽとり。と夢がかすんで
涙と一緒にふくらんで割れてしまえば
かもめだって傷つくでしょう
億年かけてかたまった土のかたまりを
アメリカ人はa stoneと言うのかしら?
そいつをピッカピカのスニーカーで踏んづけたのは
上ばかり見ていたからじゃないですか

夏の空はあまあい柑橘のかおり
つまりは一面の水たまりに浮かぶみかん
そいつを左手でむんずと掴んで
ミルクとかきまぜながらわたしは
その時にはあなたの網膜に囲まれていたので
あまり使われない思い出の奥底に沈めて
ドリンクバーのおかわりをしました

一人より少しだけ狭い部屋で
もう出来上がっている朝食の匂いと
添い寝したりだとか
キスして
朝のBGMにしてみたり
そういうことを探していたわたしと
カフェインを求めていたあなたと

ところで。
わたしの手が指紋よりも
しわが深く深く刻まれるであろう頃に
それらはわたしがふと見た夕日のように
失くした積木のひとつとなって
しまった場所など忘れてしまうのですか

目の前に
目の前にはただ
あのときと、一寸変わらない夏の空
つまりは一面の水たまりに浮かぶみかん
わたしはそいつをむんずと掴んで
ぬれた地面とかきまぜてわたしは
その上を通るあなたを
傷つけてしまうでしょう

だからわたしは
あなたが地雷を踏んでしまわないことを

祈っているのです。