選出作品

作品 - 20061104_410_1648p

  • [佳]  No Title - 浅井康浩  (2006-11)

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No Title

  浅井康浩

ゆるしあうりゆうはきっとわからないままだから、きゅっとなるむねのあたりからあふれ
だしてしまうかなしみにいつだってわたしはみたされてしまう、うしなってしまう。せめ
て、いだきあえたときくらい、ねむれるほどに、雪のかおりとなりますように。




もうすこしすればそこからあふれだすせつないみずにとけこんでしまう午後なのに
すっきりするほど泣いたからもうなにものこってやしなかったなんて、あなたがせなかを
むけたとしても告げただろうそんなつよがりがどこかでわたしをさびしくさせてしまうな
ら、はだけさせてあげるためのボタンをどうかうけとってくださいとためらったままのわ
たしには、やっぱりだれかのやわらかなてのひらがひつようであったりするのかもしれな
い。




あなたはもうふりかえることさえしないだろう。それなのに、いつものようにゆびさきへ
とひろがってゆく静脈にやさしさはあふれはじめて、みずうみに似てゆくあなたがこわい。




どこまでもしろいメンソレータムを塗ってあげるね。きっと、抱いたらすぐにしみこんで
くるあなたの傷のぬくもりが(いたい)。きっと、そんな場所にながいあいだいたふたり
だから、きっと、わたくしの体温はあなたのやさしさなんかに取り囲まれて、どうしよう
もなく、あい、とか、いろんなものにからまってしまう、そうしたきもちすべてがあなた
というものをどこまでもとうめいにしていってしまうから

そうやって、ささやかにみとどけてあげてほしいの。
かつてはそこにあってきらめいていた、いまはうしなわれてゆくものとして消えかかって
しまったすり傷までも、きみに。

あなたがやわらかなてのひらでひっかいてくれたきずあとは、どうかなくなりませんよう
に。なめらかだったまっさらであった、いままさになくなってしまってゆくわたくしとの
へだたりが、どこまでもいたみのなかでキラキラとしていますように。