そういえば明日、カントール忌だけの展翅
あかるい鱗粉をしたたらせゆくきみのために
こどものためのソルフェージュを。さぁ、
染みこんでしまうほうがいい。ここは、やはり潜れぬままに終わってしまった水泳のあと
の、あの午後のけだるさが満ちはじめてきた教室だから、そこにはきっと、どうしようも
ないねむたさにかたむいてゆくあなたがいるし、うっすらとあおいままの浮力に包まれて
いた、息をすることがみだらにおもえたそんなあなたであるために、からだじゅうをめぐ
るあのやわらかな酸素からこぼれ落ちたまどろみが、かなしみとなってほどけはじめて、
あなたのあかるい裸体そのものへとあふれだしてゆくその感触を、どこまでも手にとるよ
うにみつめることのできたあなたの視線のやさしさもあった。きっと、うすらいでゆくの
でしょうね、そう、きっとだれかにねむりをひきのばされてゆくのでしょうね、あわくて
きずつきやすいひとつの気管支となって。ひとしきり、あなたを想ううつくしいひとの視
野のなかへとおさまりながら。
dim.または dimin.音量を次第に弱めることを指示するディミヌエンドは、いま鳴り終え
たばかりの音域の消尽点をときほぐしてゆくかのようにして、かすかにひろがろうとして
はまた消えてゆくためだけのささやきをあかるいままに透きとおらせてしまうことがある。
それは、ほのかにひろがってゆくレモンピールのかろやかなあまさへと招かれて、どこま
でもやすらかに溶けいってしまうから、ときとして、その移ろいやすさが静謐さの変奏と
して鳴り響いてしまうこともあったりもした。ときに、そのようなしずけさに包みこまれ
るあなたの、しんしんとはきだすあおい息づかいにあわせながら、喉やくちびるをふるわ
せているささやきの、そのかすかないいよどみを聴きとることができたのなら、それはや
がて星辰のたわむれめいた航跡のきしみへと似てゆくことになるのだろう
きみがそっと目をさますまで、かすかにふるえることをゆるしておく
植物のえがかれたブルータイルにまぎれこむ卵殻めいた質感も
いつしか、水の銀河となってみずからを濡らしはじめるのだろう
針葉、群落、葉緑素。
ほどけゆく果皮をうすめるためだけに過ぎる時間はやがて洩れはじめるけれど、
きっと、かすれることで青としてのやさしい葉脈をとりもどしてゆくみちすじだから
きみには、いつか、プラネタリウムでみた星のはなしを
選出作品
作品 - 20060925_771_1568p
- [優] No Title - 浅井康浩 (2006-09)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
No Title
浅井康浩