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作品 - 20060320_320_1068p

  • [佳]  難破船 - 野本英舜  (2006-03)

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難破船

  野本英舜

色青ざめた海流の
その眼に映るものは
流木の数々
死者たちの破れた着衣
その折り目に刻まれた人生の情景
蝶の舞う、ふるさとの思い出

恋は
千変万化する時の潮流に流される
旅人たちの寄港地
彼の地には
魔物の棲む薄汚れた街が眠り
あの地には
しあわせを紡ぐ少女らの
夢が
何かを引きずっている

風は問う
成功と栄光と名誉と繁栄は
あなたがたの信じた生活の中で
どれほどの腐敗を友としたかと

波は問う
苦悩と悔恨と喪失と貧困は
あなたがたの愛した生活のなかで
どれほどの快楽を必要としたかと

真実は
薄っぺらい言葉の壁紙に装われて
なにも語ろうとしない

野心は脱皮して
白い蝶になったろう
しかし
誰もが漂流の果てに見失ってきた
青春を海流に濯ぐのではないか

蛆虫は堕落することがなかった
それが唯一の誇りだった
守り通してきた信念がある
そういい残すかもしれない

白鳥は潔癖だった
人を裏切ることがなかった
それが私にとって生きることだった
辛い道のりだった
そう呟くかもしれない

言葉は
波に飲まれてゆく
ふりかえることはない
ただ、波にとって
真実はどこにあるか
そんなことは問題ではなかった
みな、流木とおんなじだった
海流に流されてゆく木切れとおんなじだった

寄港地では
エーデルワイスの花が咲く
嘘と真実が入り混じった街で
遭難者の弔いが厳かに行われる
風が吹きつける港町で
少女が赤いパラソルを揺らせる
難破船は
遠い海の底に眠っている
その証拠を
誰も探そうとはしなかった