気がついたら星に届いた虫取り網
終わった帝国の掃除夫が 崩れかけたビルに昇っていく
ひび割れた窓枠から 四つ羽根の鳥どもが飛び立って
もう祈らない そして離れていく大陸
上昇速度の匂いに蒸せて 誰もがコクピットを閉めた
ロープで回したプロペラが落っこちてきて
ガレージで眠る 生まれなかった猫について
もう祈らない そして割れていく空
林檎のうたを歌う老婆が
車椅子で海に沈んでいこうとしている
三等星が香る夜の隅っこで
気の狂ったような坂を越えて
神よ 祈らないでくれ ぼくらのために
誰もあなたのために祈ることは許されない
シーワズ ビューティフル
それ以外に正しいことなんてないから
スポンジで空をこすったら
煙草のやにまみれで嬉しくなった
複眼の子供たちが羽根を広げる夜に
誰もが空に近づいていく
次々に落ちていく爆撃機を俯瞰して
ぼくは次の閃光を待った
それはいつまでも訪れなくて
あなたはかつて美しくて これからも美しいとよかった
ぼくは次の閃光を待ち続けた
その度に新しい歌が生まれるような気がして
飲み込まれるべき閃光を待ち続けた
それはいつまで経っても訪れなかった
落ちる飛行機の祈りについて
それ以外に考えるべきことなんてなかった
シーワズ ビューティフル
それ以外に正しいことなんてなかった
あるいは落ちていく光に
そして離れていく大陸に
願わくば終わった帝国に
無限に近い時間が過ぎて
崩れかけたビル群の真下
やわらかなカーヴを描く川を双頭の魚が泳いでいく
四つ羽根の鳥は電線の上で絡み合って
新しいくず星を産み落としていく
忘れ去られた歩兵の群れが
雪のシベリヤを前進していく
優しく磨がかれたピストルの温みで
彼らはどこまでも行進していける
神よ 救わないでくれ
誰もあなたのために祈ることを許されない
あなたは美しかった これからも美しくあって欲しかった
終わった世界に そして 終われなかった世界に
崩れた街並みはいつか蔦に覆われ
もう描写を必要としないあなたが
そこにそっと足を降ろす
救いの名のもとに
畸形の花々に無数の始原生殖細胞が輝いて
誰もが普遍に繋がっているから
その時世界は接合を始める
描写されないあなたが足を降ろしたその場所から
目のない魚の群れが
受精のあわ立ちを世界に巡らせていく
思い立ったように大陸が繋がって
もうあなたは描写を必要としない
スクラップ置き場のメシアが
両足を広げて世界を笑っていたけれど
それでもなお
ぼくらは繋がろうとする 繋がっている 繋がっている
選出作品
作品 - 20060301_945_1005p
- [優] 繋がっている(She was beautiful.) - ケムリ (2006-03)
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繋がっている(She was beautiful.)
ケムリ