選出作品

作品 - 20060104_095_873p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


神隠し

  スルー

掻き分ける ちくちくと細かい葉に引っ掻かれる 見えない 苛々する
木々の隙間 根につんのめる ここは道か 馬鹿な質問を繰り返している
いつの間に走っている 裸足であることに気が付く 暗い 擦り切れていても見えない
目的は何だと尋ねる 数秒前の永遠に まやかしの五感と距離に
断線する 繋がりかけてストンと落ちる 見えない奥歯の間 致命的なモノが挟まっている
頭上が開く 丘の魚のように喘ぐ 死んだものを生かす「 」を求める
白黒の極彩色の中にいる 嘘のように明るい これが嘘でないと俺には言えない 術が無い
此処と其処という極点 青白い何か 俺とまやかしを浮き彫りにする何か
奥歯のモノが僅かにずれる 脳髄に羽虫が閃く あれは月 これは光だ


ならば俺は 此処は 一度目を閉じる 俺も此処も消える 失う 意味を
月に 月に向かう この間際 あの光 俺の実存を肯く光
走る 理由がある 何かが堰を切る 走る 理由が 理由がある
痛い 腕と脚を思い出す 痛い 擦り切れている 見えずともわかる 今は

急ぐ 急ぐ 俺をここに攫った何か 背後に 俺の意味を奪った何か ひたひたと
追ってくる 息が続かない 転ぶ 恐い 四つん這いで走り抜ける 
俺は森にいる 本当はここではない森にいる 俺はここにはいない 向こうへ
此処と月 二点がある 座標がある ここでない場所がある 確かに
奥歯のモノに手が届く 辿り始める 掴んだ 大切な「 」 確かに


  俺が在り始める 

               追ってくる何か

        もう 少し で


                         「 」に