選出作品

作品 - 20051217_860_835p

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喫茶店「ハル」

  ミドリ



喫茶店のカウンターをデスクに
宿題のドリルをする女の子の指先から
ミサイルが5発飛ぶ
床に敷きつめられた石肌に落下
爆撃地は女の子の
スニーカーのつま先5センチ先

女の子の髪はピンクで
コットンキャンディー色の服と
なすびのようなぽってりとした身体
カウンターでモカを
彼女の母は挽いている

消しゴムでこする音と
モカをかき混ぜる音と
客のくわえタバコにともる火
冬には
誰かしら わかるはずもないけれど
なにかしら「わけ」を瞳の中に持ち
肩をすくめている
ひとときがある

カフェの名前は「ハル」
出窓には精巧なヨットの模型
ガラス磨きのクレンザーが
フタの開いたまま立っている
目を瞑ると
会社帰りの勤め人も
宿題をする学校の女の子も
店の看板を切り盛りする一人の女も
なにかしら「わけ」を
抱えて生きていることがわかる

今日もつま先で
爆撃がくりかえされた後
レコードから針を下ろすように
町は静かにターンし
闇をダッフルコートに包んでいく