選出作品

作品 - 20051107_052_702p

  • [優]  鯨幕 - 鈴川夕伽莉  (2005-11)

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鯨幕

  鈴川夕伽莉

「お亡くなり」って
何で彼女の名前の枕詞なの?
同窓会のメーリングリストが
数年ぶりに来たと思ったら

翌日久しぶりの0番ホームに立つ
背後で訛った少女達がはしゃぎ
あの町の数年前まで引きずり戻される

一時間ちょっとで視界を奪われる
雪雪
雪雪雪
家家は肩を寄せ合い
それぞれの灯火にはそれぞれの命が
互いの距離感について
安堵なり憎悪なりを蓄積させている
のだろうか

吹雪の駅前ロータリーにて
シルバーのPOLOが辛うじて点灯
友達だ(この子は生きている)
こんなことでもなければ
三年だって五年だって会わないところだった

まずコンビニに寄る
ふたりともストッキングが伝線

今日ほど「久しぶり」という事実を
有難いと思う日はないだろう
「懐かしい」話題には事欠かないからね
でも到着すれば
こんなところに葬儀場あったんだねえって
そこだけ私達の世界は一新されたのだ

黒服の集団は同級生達
案内ありがとう
そうか私達の服装だってこの場にぴったりだ

ところで彼女に会いに来たのだよ
それなのに何故白粉なんかしてる?
普段彼女は化粧なんかしなかった筈だよ

あんたは彼女じゃない

とても冥福なんて祈れやしない日だ
明日も仕事だからもうお暇します

会話の中で同級生の名前を取り違えた
教授の名前を忘れていた
記憶は建て増しを放棄されるジェンガ
彼女については「死んでしまった」という
未確認の事実のみによって
辛うじて遺棄を逃れたというのか
友達にさようならを言う
駅前ロータリー
「ゆかりは変わっていないみたいで良かった」
そんな風に言わないでよ

老朽列車はふたたび夜を裂く
こんな時間だから家家の灯火まばらで
眠っているだけなのか誰も居ないのか
これが最終便だからもう確認出来ない