降りやまない霧の両腕にやわらかく抱かれ
岸辺の草むらに浮かんでは消えてゆく
秋桜の額に不吉な星がそっと灯るころ
澄んだ水底から聞こえてくるいくつもの寝返りは
初めから櫂を与えられていない小舟と
帰る場所も行く当ても知らない川とが
やがて互いに互いのなかへ織り流れてゆくその空を
夜は吹き抜けてゆく何ごともなかったかのように
きびしい星座の胸はやぶれ水と水はあふれ
眠りようのない眠りを送り届けてくれるのだ
そしてひとつの右手が紅の氷雪を受けとるだろう
そしてひとつの左手が手渡すだろう地上の悲歌を
選出作品
作品 - 20051015_606_625p
- [佳] 眠り - 丘 光平 (2005-10)
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眠り
丘 光平