百足のスパゲッティの茹でる夏
無常のからまりが
ラの音をソのように鳴らしながら
すべてのメロディの半音を下げている
ぼくが受信する
一日に百を超える得たいの知れないアラートは
プログラムされた奇妙な音声を
繰り返している
「色は二歩へと」
「色は二歩へと」
「色は二歩へと」
**
ある日
白球の高く舞い上がるグラウンドの
中央で
ぼくたちはどうにも落ちてこない白球を待った
いつまでも落ちてこない白球に
観客は呆れ
やがて審判はゲームセットをコールしていなくなった
しかしぼくはあれが落ちてくるのを待つしかなく
テレビはコマーシャルばっかりで
ぼくはいつもアウトだった
ある日
公衆電話のボックスの前で
ぼくは待った
中では恋人同士がいちゃついている
ぼくはやはり待つしかなかった
やがて恋人同士は疲れ果て
ぼくには愛想もくれず
ボックスを後にした
ぼくはいそいそとボックスの中に入り
濡れ濡れの受話器を手にした
そして全国に散らばるぼくの縁戚者に
片っ端から電話した
だけども誰にも繋がらず
テレホンカードがピーピーっと
鳴り止まない
百足のスパゲッティの茹でる夏のある日
爆発するレコード屋の
レコード針を買いに
久しぶりに市場へ出かけた
そこでぼくが目撃したものは
花を売る少女が大人たちに
次々と買われ
道端のあちこちに置き去りにされた花
なぜかぼくは空腹を感じ
ぼくにふさわしいランチが食える食堂を探した
お子様にふさわしいお子様ランチが
いくつも陳列された店の前で
ぼくは立ち止まり
雨が落ちてくるのを、待つしかなかった
そして
無限に近い時間が過ぎ
無数の黒豆が
落ちてきた
ぼくが待たされ続けた世界の
閉ざされた
天上から
black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black beans are falling from the ceiling..black bea
選出作品
作品 - 20051012_526_609p
- [優] 黒い豆 - 一条 (2005-10)
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黒い豆
一条