ふれてくる これは
耳の中の空が破れてゆく 声の
においがくる あれは
目の奥の時が燃えてゆく 影の
冬
冬を降り積もらせる
雪のまだ少ない旅だというのに私は
細く長い夜を追い越してしまうとそこは
川
川よ せめておまえは
ひとの胸の数だけあるという
月の痛みを酔わせ
おまえらしく流れてゆけ この星の私の
水
水を駈け昇ってくる
銀の鏡のうらがわに異国の窓はある
霧のピアノが灯っているよ そのために
光を落としたのだろう
氷の絵筆が踊っているよ そのために
歌を持たないのだろう
ああ
いくつもの
雪の手のひらが
結び目をとかれた私の胸に
ふれてくる 遠くから
においがくる こちらへと
朝
朝を切る羽ばたきに
川の月の花びらが
ひとりしずかに枯れ落ちるころ
腹底の
冬のこげ跡に私は感じる
こどものように鳴いて咲くひとかじりの
赤らむ檸檬を
選出作品
作品 - 20050919_024_534p
- [優] 檸檬 - 丘 光平 (2005-09)
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檸檬
丘 光平