選出作品

作品 - 20050907_767_491p

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一グラムの夜

  丘 光平

 紅茶の午後は
 ひとさじのブランデーと一枚のうたを添える


 となりの部屋で
 郵便配達がベルを鳴らす5分前
 忘れていた秋からの便りは届く



  画廊の中空にたゆたう湖
  若い女の氷が
  あざやかに燃えている

  名を呼びつづける
  森の恋びとは
  生まれて初めて
  朝のうしろ姿をみつめた



  K家具店では
  硝子の椅子がよく売れている

   ―主人には
    出来のいい双子の息子がいたね

   ―ひとりは
    一歩も外へ出ることなく
    行方がわからないんだ

   ―ひとりは
    占い師になって
    木曜日に美しく狂ってしまったよ



   ヒトイロ欠ケタ
   虹ハ
   旗ノヨウニ
   歌ッテイル

   ミツバチノ
   群衆ガ
   麦ノヨウニ
   指差シテイル



  屋根を持たない礼拝堂
  茎の折れた花嫁は
  石を胸に抱き乳を与えている

  束ねられた男たちから
  花のように
  こどもたちは帰ってきた



  終わらないカルタ遊び 
  薔薇のとげに
  蛍がしんしんと流れてゆく

  窓辺には
  踊りつかれた白いブラウス
  そして
  青い少女の音



 となりの部屋で
 二度ベルが鳴る5分前
 遅れていた秋からの便りは届く


 紅茶の午後は
 ひとさじのブランデーと一グラムの夜を添える