選出作品

作品 - 20050718_885_327p

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夜とボタン

  紫名

夜の正しいシステムに則り
この静かなおはじきの上で
男と女は、カーテンで包装された篭の虫になり
幸せそうに彷徨っている

晩餐の途中
胸のボタンが外れてしまった
おそらく そろそろ解れかけていたのだろう


       ―ボタンは円独特の転がり方で 平らに回る


どちらかのボタンかは すぐ分かるように
どちらかが印をつけていた
ボタンは暫し 浮遊するように舞う
それを凝視していたら
もう包れることなどないと女は 知る


離陸した夜
女は背中に乗っていたが
昨日の汗と共に
降りろと、言わんばかりに 男が
手をじたばたさせる
もうお前を落とせなくなったのだ と
汗の中に 沈んでいき
そのあとデカイ水風船みたく
泣いて破裂したので
女は その場を下りた


歩道橋から見える景色
ネオンが上下に流れながら どこかへつながっていく
先のことなどは、このように見えるものだ
手混ぜる先には 黒い服のボタン
足取りも顔の表情筋も
いつもと変わらない
女は何も見ずに 男の元へ急ぐ
何もかもを生け捕りたい一心で



点滅しているものを にわかに吐き出せば
楽になると知っている
どっちが先に染まるかを 期待して
そして絶望するのも知っている



ひとつになった振りをした後
それから晩餐は始まった
落ちたボタンは 早速
二人に秒読みを強いた
 さあ 早く 拾って くれ と



何も変わらないまま二人の脈は穏やかに打ち続ける
夜のシステム通り、誤りは一つもない