選出作品

作品 - 20050617_615_271p

  • [佳]   坂 - 丘 光平  (2005-06)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


 坂

  丘 光平

   坂をあるいた
   坂をあるいては休みまたあるいた

   途中
   名のない大きな木がある
   木のなかにおじいさんはいなかった

   少年のころ
   アカアシクワガタをつかまえた 
   翌朝
   クワガタのなかにいのちはいなかった

   なくなるものはいつもそこにあって
   見ることは罪になった
   見ないのはもっと罪になった

   空に正しさをもとめた
   天の海はつめたく波と波にあらわれ
   白は点々としたたかに
   母となる父となる

   ああ流れてゆくもの流れてゆかないもの
   風と雲と私と

   ひとつ ふたつ くしゃみをした
   冬のすこし向こうがわ
   いつかのおとこの子がいてこちらを向き
   かなしそうにわらった
   さようならとわらって

   坂をあるいた
   坂をあるいては休みまたあるいていた