選出作品

作品 - 20050511_309_217p

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部屋と桃の実と彼女

  丘 光平


桃の実はふっくらと赤らみ
繊細な綿毛にくるまれ
桃の実をもつそのちいさな手のために
真白のテーブルクロスはある
いつになく
銀いろのナイフはものしずかに
かべの絵ざらはそっと耳をすませ
窓の光やわらかな
日曜日の魔法をかけられて
部屋と桃の実と彼女は待っていた
あのひとがやって来るのを
新しいうすももの洋服には
水玉のりぼんがむすばれ
その中央に赤いばらが凛と咲いている
彼女は時計をみないふりをして
そのひとさし指は桃の実をくるくると
くるくる くるくるといつまでも
窓の光やわらかな
日曜日の魔法をかけられて
部屋と桃の実と彼女は待っていた
あの青年画家がやって来るのを